50代からの働き方を考えるシンポジウム バブル世代のキャリアシフト ~ミドルの覚醒が会社を元気にする~/㈱FeelWorks主催シンポジウムレポート

コラム&インタビュー

株式会社ディスコ ●ディスコの働き方・キャリア

徹底的に個人の意思と自由を尊重する仕組みがミドルを活かす

続いて、精密加工装置、精密加工ツールのメーカーであるディスコの野上健史氏が登壇。ディスコでは会社や社員をあるべき姿に誘引する企業統治に関して、理想としない統治と理想とする統治を明確に定義している。

「理想としない統治は、すべてディスコ用語なのですが、ルール治、命令治、恐怖治、人治。一方、理想とする統治は、経済治、信頼治、オピニオン治、原則治です。イメージとしては、社会主義経済のような統制を基本とする統治ではなく、自由主義経済のような経済合理性に基づく統治ということです」(野上氏)

世の中の多くの会社が、経営・上司・管理部門が適正だと考える姿へ、ルール、命令によって誘引する社会主義経済型の統治システムであるのに対し、ディスコは、自らの自由な意思(Will)によって、あるべき姿に誘引する仕組みをしていこうとしている。そこでの判断の基準は、原理原則であり、経済合理性であり、信頼であり、内的動機だという。

野上氏によれば、「Will」は単に経営理念を表現するためだけの言葉ではなく、経営ツールとしても活用されている概念だという。

「ディスコは会社の中に『価値交換』という考え方をもっています。従業員と会社は、労働力とその対価を交換することで関係性が成立しており、その価値をWillを使って見えやすくしていこうということですね。具体的に言うと、『誰かこの仕事3万Willでやってくれない?』『いや、3万Willじゃやってられないよ』とか、『こっちは2万Willでもいいですよ』といったやりとりが、社内で日常的に行われています」(野上氏)

Willの収支は一人ひとり見える化されており、各自の価値交換性が一目でわかるようになっている。それだけではない。ディスコでは、マネジメントに関してもWillを活用。やるべき仕事があれば、上司は「やりなさい」と命令するのではなく、Willで高い報酬を提示する。やって欲しくないことがあれば、「やってはダメ」とルールを決めたり、命令したりするのではなく、やった場合にはWillで課金するという方法をとる。やらなくていい仕事であれば、Willで安い報酬を提示する。

「マネージャーは価格を設定するだけです。従業員一人ひとりは、経済合理性に基づいて判断します。そういうWillの経済を回していこうという考え方です。そのときに重要になるのが業務の自由化ですね。発注も受注も自由にできるようにして、業務の独占は禁止しています。例えば、営業から翻訳チームに翻訳業務の発注があったとします。忙しければ翻訳チームは断ってもいい。ただし、経理、人事など他部署の英語ができる人間が手を挙げて受注することもできるんです」(野上氏)

ミドルであっても自分の意思で働きがいを追求できる

ディスコが人財活用の基本としている考え方は、期せずしてソニーと同様の「自分のキャリアは自分で作る」だ。そのため、社内異動に関しても自由を徹底している。会社命令による異動はほぼないという。

「今の部署が嫌だ、今の上司・同僚が合わないという人は、異動したい先の部門長と話をして交渉してください、それは自由です、ということです。そこで交渉が成立すれば異動となりますし、交渉不成立なら異動はできない。労働市場の考え方をそのまま社内に持ち込んでいます」(野上氏)

このように、一人ひとりがWillで動く自由な組織を成り立たせるために、ディスコが重視しているのは「働きがい」だ。

「私たちは、いろいろな福利厚生や早く帰ることよりも、時間を忘れて没頭できる仕事、共に働きたいと思える上司・同僚の存在こそが働きがいにつながると考えています。ですから、自分の意思に合わない仕事、のってる時にかけられる残業規制、本人が受けたくもない『馬の耳に念仏』研修、嫌な上司・同僚、といった働きがいを阻害する要因に関しては、従業員が自分でコントロールできる仕組みにしているのです」(野上氏)

働く内容や一緒に働く同僚を会社がコントロールしようとすれば、結局は他責になり、不満につながっていく。しかし、自分でコントロールできるのであれば、すべては自責であり、行動変容につながっていく。ディスコのマネジメント、ミドル以降のキャリアに関する施策にも、こうした方針は通底している。

「まず、私たちは『マネジメントをしてなんぼ』という考え方はしていません。マネジメントより重視しているのはリーダーシップですね。リーダーシップはプレーヤーであっても発揮できるはずですから。ミドルでもプレーヤーとして価値を生み出しているのであれば、それは素晴らしいこと。ですから、当社では、役職と報酬はリンクさせていません。もちろん自分の意思でマネージャーとして生きていくんだということであればそれも素晴らしいことですから、やりたいだけ続けられるよう役職定年なども設けていません」(野上氏)

同社では、ミドル以降も、プレーヤーであれ、マネージャーであれ、自分の意思でキャリアを選択でき、自分に合った仕事を社内で探すことができる。例えば、プログラマーとして活躍した人が、年齢を重ね、体力的に厳しくなって人事部に異動し、社内人事システムの構築で活躍するといったキャリア選択が実現されているという。活躍の場を見出すのはあくまで自分。それがミドルのモチベーションアップにつながっているという。

3氏のプレゼンテーションによって、ミドルが活き活きと働くための、企業、個人それぞれにとっての目指すべき方向性、ヒントとなる具体的な方策が示された。3氏の主張に共通していた「キャリア自律」の重要性についても多くの参加者の方々が改めて認識したのではないだろうか。

「本日は先進的な事例も紹介されましたが、『自社の状況とは乖離がある』と感じた方も多いかもしれません。大きな組織であるほど抜本的な改革は難しいものです。しかし、まずは小さなことから始めて、そこで小さな成功を積み重ねることで、風穴を開けることができるのではないでしょうか」(前川)

ラストのトークセッション後、主催者であるFeelWorks代表の前川はこのような言葉でシンポジウムを締めくくった。