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「自律型人材」を育てるための人事制度・階層別研修とは?/人材育成施策ファイル:トラスコ中山(株)-後編

トラスコ中山株式会社
「がんばれ!!日本のモノづくり」をスローガンに、工具や作業用品、消耗品、機械類など工場や建設現場などで使われるプロツールを扱う商社。1959年、大阪市天王寺区で創業。1994年に現経営者の中山哲也氏が代表取締役社長に就任し、2014年には東京都港区に本店を移転。全国に99か所の拠点があり(本社2、支店75、物流センター17、ストックセンター5拠点)、取り扱いアイテムは2018年9月末時点で約173万点。かつ毎年約3万点のペースで新規取扱商品を増やしている。人材開発に関する新しい取り組みも積極的に進めており、厚生労働省が主催する「グッドキャリア企業アワード2017」ではイノベーション賞を受賞。2018年9月時点の従業員数は2720人(正社員1621人、パート1099人)。女性社員数も年々増えており、現在の男女比は2:1。2017年の売上高は1950億9600万円で、2011年以降右肩上がりの上昇を続けている。

自分の「損得」ではなく「善悪」で判断できる思考を研修で鍛錬

階層別に実施している研修も同社の人材育成の重要な柱となっている。

入社時、4年目、6年目に全員を対象とした研修があり、9年目以降は、ボス(管理職)候補になるために必要な立候補制の研修であるボスチャレンジコース、選抜されたボスチャレンジャーの研修であるボストレーニングコース、新任ボスを対象とした新任ボス・コース、ボス全員が2年に1回参加するボスマネジメントコース、部長を対象としたディレクターコース等が設けられている。

階層別研修自体は珍しいものではないが、同社の特色は、研修を徹底した理念浸透、およびその理念をベースとした考え方を鍛錬する場として位置づけていること。研修内容には論理的思考やコミュニケーションスキルなどのスキル・知識に関する教育も含まれているが、研修時間の7割程度は社内で過去にあった事例を取り上げでディスカッションするケーススタディによる理念・考え方の教育に充てられている。

「当社の経営理念の一つが『取捨善択』。自分の損得、部署の損得で考えるのではなく、物事の善悪で考え、行動することを社員に求めています。例えば、入社4年目で重要な戦力になっている社員が他部署へ異動になり、未熟な入社2年目の社員が自分の部署に入って来たとします。このとき、自分の利益、部署の利益だけを考えるボスなら当然不満を訴えるでしょう。しかし、会社は人を育てる場であるという俯瞰的な視点に立てば、若手の育成に貢献できるのは名誉なこと。ボスやボス候補を対象とした研修では、実際にこのような事例を取り上げ、『自分ならどうするか』を徹底して考え、議論してもらいます」

このようなケーススタディを中心とした研修と比べると、毎年入社式の前に箱根で合宿して行う新入社員研修はやや異色。チーム対抗で約8キロの山道を走破するこの研修は35年続く同社の伝統で、最初に「自分の限界値を壊す」ことを目的としている。今どきの若者には厳しすぎるのでは?という印象も受けるが、採用時に職場を理解・経験させ、トラスコ中山という会社を理解したうえで入社していることもあり、毎年全員が完走を成し遂げる。そして、晴れ晴れとした表情で保護者も同席する入社式を迎えるのだ。

採用はほぼ新卒という純血主義の同社にとって、この新入社員研修でその後の成長の土台を作ることが重要なのだという。

部下の自律を促すのはボスの役割。2年ごとの研修でその力を養う

「経営理念もトップのメッセージも掲げるだけでは絵に描いた餅です。また、一人ひとりの社員を研修だけで変えることはできません。経営者の理念を自分の言葉に置き換えて部下に伝えること、日々のコミュニケーションを通して部下の成長を促すことがボスの大切な役割。日々変わる経営環境に対応しつつ、理念に基づいたリーダーシップを磨いてもらうため、2年に1回、ボス全員を対象に実施しています」

なお、一連の研修では、知識・スキルに関するものを除き、社員が教官を務める。ティーチング型の一方的に「与える」研修であれば外部のプロ講師が適任だろうが、コーチング型の「一緒に考える」同社の研修は、上司・先輩が教官だからこそ最大の成果が得られると考えている。

最後に、同社のユニークな取り組みである「白紙の部屋研修」にも触れておこう。自分で考え、行動する社員を育てることを目的としたこの研修は、手を挙げた社員に、30万円の軍資金と1カ月の期間を与え、自分で設定したテーマを研究するというもの。


ファッションの街としても知られる裏原宿にて、期間限定のプロツールショップを展開。既成概念にとらわれない斬新な発想や行動力がうかがえる。

「新しい商品でも、販売方法でも何でもいいんです。とにかくゼロから自分で考え、研究成果を経営会議で提言してもらいます。10年ほど続けており、毎年1、2名が参加。まだ事業化した例はないのですが、最近は、裏原宿に期間限定のプロツールのショップを出すなど、社内の既存の考え方にないアイデアも生まれるようになってきました。この研修を通して新しい発想ができるイノベーターにも育ってほしいですね」

一連の施策を通して、社員の意識は確実に変わってきた。しかし、まだまだ課題はあると木村氏は言う。

「例えば、女性社員が管理職になりたがらないという状況は、他社と同様、当社でもあります。これは女性社員ではなく上司の責任なんです。仕事がある程度できるようになり、自己完結しがちな7年目、8年目がターニングポイントですね。ここに至るまでにボスがどれだけチャレンジ精神を育てられるか。今はそれが研修でも重要なテーマになっています」

働く人たちが多様化し、働き方改革が求められる昨今。柔軟な働き方と成果や生産性向上を両立させる経営観点からも、人生100年時代となり一人ひとりのキャリア開発観点からも、「自律」が重要なキーワードになっている。

そのため、多くの企業が自律型社員を求め、その育成に取り組んではいる。しかし、思うような成果が上がっている企業は少ない。特に大企業の場合は、体に染みついてしまった組織に依存するサラリーマン体質を1回、2回の研修で変えられるものではない。ましてやトップが形だけのメッセージを発したところで社員のハートには届かない。常に現状の課題に向き合い、未来を見据えて人を育てるトラスコ中山の終始一貫した人材育成のあり方は大いに参考になるはずだ。

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