2019年度採用からあえて「留年採用」実施。マイナスと思われる要素に注目したわけは?/㈱東急エージェンシー 人事・総務局 人事企画部 仲野 大輔氏-前編

コラム&インタビュー

他社がやらないことを仕掛けることが社会的メッセージにもなる

前川:すると、「粘り強い人材」や「こだわりのある人材」を集めるということに関しては狙い通りに行ったということでしょうか?

仲野:そうですね。内定者のプロフィールは結果的として本当に多様でした。アルバイトで社員に近いような働き方をしていた人、病気で1年程度休むことになってそこから頑張ってリカバーした人、映画作りに熱中していた人と、一人ひとり違いましたね。現役時代に大手メーカーに内定をもらったにもかかわらず、思うところがあって辞退し、留学をしたという人もいましたね。内定に至った新入社員に関しては、自分なりの意思や考えをもって留年していたか、もしくは留年経験を糧に就活に臨んでいた人ばかりでしたから、狙い通りの人材は採用できたのではないかと思います。

前川:留年採用で応募してきた人たちからはどのような声が聞かれましたか?

仲野:やはり留年をマイナスな要素としてとらえていると考える学生が多いですから、そこにあえて注目してくれる東急エージェンシーはおもしろい会社だと評価してくれる声が多かったですね。

前川:留年採用の内定者は、そのほかの新卒採用組と比べて違いはありましたか?

仲野:現段階ではそこまで大きな違いはないですね。まだ初年度ですから、今後、彼らのポテンシャルがどう花開いていくかに注目していきたいです。

前川:御社は2016年度採用では「顔採用」という施策も行っていますよね。

仲野:あれはよりPR的な色が濃い施策でした。決して顔がいい人を優先的に採用するということではなくて、当社の社員の顔を分析していくつかのタイプに分類したうえで、Webカメラで撮影した応募者の顔を診断するという一種のWebキャンペーンです。

前川:当然そこの注釈はつけられていたわけですが、それにしても今どきの風潮を考えるとリスクのある攻めたメッセージを出されたなあと感じました。しかし、だからこそ世間が注目するという面もあります。非常に広告会社らしい取り組みですね。

仲野:結果、賛否両論ありましたが、7:3くらいで肯定的な意見が多かったので、おもしろがってもらえたのかなと思います。顔採用でドキドキした経験があったので(笑)、留年採用に関しては、いくらか反対意見もあるだろうと想定したうえで仕掛けることができました。

前川:万人に受け入れられるメッセージなんてないですからね。

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株式会社東急エージェンシー
1961年、東急グループの一員として設立された広告会社。事業領域は、最高のブランド体験を創出する「コミュニケーションデザイン」、コアアイデアをストーリーにのせて伝える仕組みを作り出す「クリエイティブ」、独自のソリューションツールなどでデータを収集、分析し、最適なマーケティングプロセスを導き出す「マーケティングソリューション」、キャンペーンやイベントなどの「アクティベーション」、プランニングからバイイング、コンテンツ開発や番組プロデュースなどを行う「メディア、コンテンツ」など非常に幅広い。近年は、2016年度採用では「顔採用」を導入、2019年度採用からは「留年採用」を採用するなど、新卒採用に関するユニークな取り組みが注目されており、留年採用は2018年、「日本の人事部」が実施する「HRアワード®」にノミネートされた。

構成/伊藤敬太郎