「男性中心」の不動産業界で、女性活躍を推進するポイント /東急リバブル㈱-後編

コラム&インタビュー
東急リバブル株式会社
1972年、東急不動産株式会社の売買仲介部門を母体に、大手不動産会社で初めて不動産流通業に特化した会社として、東急リバブルが誕生。宅地・建物の売買の仲介を行う「売買仲介」を中心として、賃貸物件の仲介を行う「賃貸仲介」、「新築販売受託」、「不動産ソリューション」「不動産販売」など、幅広くビジネスを展開している。同社では、2013年4月に、大手不動産流通会社で初めてダイバーシティ専門部門を設立。2015年には、厚生労働省主催の均等・両立推進企業表彰において、同社の女性活躍推進や両立支援の取り組みが評価され、「東京労働局長優良賞」を受賞した。

当事者である女性社員に対しては、「不安」を取り除き、キャリアアップに前向きになれるよう支援

当然ながら、女性活躍推進に取り組むにあたり、女性たち自身の意識への働きかけも欠かせない。

「会社としては、女性社員のキャリアアップに向けて、『能力』と『意欲』の2つの側面で支援しています。管理職として働くには、リーダーとしての能力・スキルと、リーダーになることへの意欲、どちらが欠けてもいけません。能力面が不足している社員に対しては、研修で業務知識やスキルを提供しますし、自信の無さからキャリアアップに後ろ向きな社員に対しては、『不安に思うことないよ』と声をかけ続けることが大切です」

女性社員の不安を取り除く施策として、二つのメンター制度を紹介しよう。一つは、「部長職メンター制」だ。豊富な知識や経験を持つ部長職の社員が、管理職候補の女性社員のメンターとなり、業務面はもちろん精神面でも気づきを与える制度である。「管理職の仕事は大変そう」「自分ではきっと務まらない」と思い込み、昇進・昇格に消極的になってしまう女性社員は少なくない。そんな彼女たちと対話を重ね、高い視座から管理職の仕事の面白さや醍醐味、仕事に向かう姿勢や心構えを助言してもらうことで、自分の成長につなげていく。

「管理職になることに対し、自信を持てない女性社員は本当に多い。でも、個人的には、管理職の仕事って、とても女性に向いていると思うんです。もちろん個人差はありますが、女性は相手の気持ちの動きに敏感です。相手が褒められて嬉しいポイントや、反対にモチベーションを下げてしまうポイントなどがわかるので、人をやる気にさせるのが上手な人が多いんですね。今までリーダーの機会や経験がないから『自分にはできない』と思い込んでいるだけで、きちんと『自分にもできる』ということに気付かせてあげなければいけません」

もう一つのメンター制は、「女性売買営業職メンター制」。部長職メンター制とは別に、2013年に導入された、若手の女性売買営業職を支援する制度だ。当時、同社の女性売買営業職は10名程度。男性と比較すると圧倒的に少数。したがって、若手の女性売買営業職は、身近に同性の先輩社員がおらず、女性ならではの営業手法や業務上の悩みなどを相談できる相手がいなかった。そこで、営業部署の垣根を越えて、異なるエリアの先輩女性売買営業職とペアを組ませ、彼女たちをサポートする仕組みが導入されたのだ。

「身近に女性の売買営業職がいない」という課題感から運用された制度は、女性活躍の取り組みにより必要性がなくなるほどに

2013年4月から女性活躍推進に着手して、ちょうど6年。当時と比較して、同社では至るところで変化が表れはじめている。そのわかりやすい例として、前述の「女性売買営業職メンター制」のニーズが低下してきたことが挙げられる。

「制度導入から6年が経ちましたが、今では、一つの職場に数名の女性売買営業職がいるのが珍しくなくなってきました。わざわざ離れた職場の先輩とペアを組まなくても、若手社員が身近な先輩に相談できる組織体制になってきた。女性売買営業職メンター制は、良い意味で必要性がなくなってきたと言えると思います」

取り組みの成果は、同社が例年実施している「ダイバーシティ意識調査」からも読み取れる。調査によると、自社を「育児や介護と仕事との両立がしやすく、働きやすい会社だ」と評価している社員が圧倒的多数だという。そして、注目すべきは、両立社員だけでなく、直接的な当事者ではない社員たちもそのように回答しているという点だ。

「この意識調査を通じて、サポートされる側・する側に関わりなく、社員たちが会社の施策・制度に賛同してくれていることを改めて実感しました。社員たちの理解を得ながら改革を進めてきたことで、会社全体で女性活躍の気運が向上していると感じています」

最も「男性中心」の色が強い売買仲介部門で変革を起こしてこそ、本物の女性活躍推進である

これからの東急リバブルの女性活躍推進について、野中氏はどのように考えているのだろうか。

「弊社の女性活躍推進はまだまだこれからで、今後は『売買仲介』の部門での女性活躍に、さらに力を入れていく必要があります。先ほど申し上げた通り、女性社員は『賃貸仲介』の専門職として入社することが多いです。なので、『賃貸仲介』ではもともと女性社員の割合が高く、育児と両立しながら営業担当として活躍する社員も増えてきました。しかし、弊社の主要事業は『売買仲介』。近年少しずつ女性売買営業職が増えているとはいえど、『男性中心』の体制が長く続くこの部門で変革を起こしてこそ、弊社における本物の女性活躍推進だと思います」

女性活躍推進は、労働人口の減少による慢性的な人材不足を背景に、各企業の喫緊の課題である。しかし、現場の社員たちの声に耳を傾けずに施策を推し進めると、社員たちから不満が噴出し、結果的に行き詰まる。東急リバブルでの女性活躍推進の例のように、社員一人ひとりの理解を得ながら改革を進めていくことは、一見すると時間がかかり、遠回りに見えるかもしれないが、変革を実現する一番の近道なのだろう。

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