会社なんてカッパみたいなもの。「複業」を通じて一人ひとりが幸福になる働き方を目指せばいい。/サイボウズ㈱ 代表取締役社長 青野 慶久氏-前編

コラム&インタビュー

会社なんてただの虚構。カッパのようなものなんです

前川:それこそ資本主義ですね。交渉する社員の方は結構いらっしゃるんですか?

青野:それほど多くはないですが、いつも一定数はいますね。

前川:サイボウズが実践する複業は、社員の自立を後押しするものだと思いますが、それを実現しようとするとき、市場価値とできるだけイコールの評価をするというのは非常に大切なポイントになりますね。

ところで、青野社長は先日、伊那食品工業の塚越寛会長との対談で、「事業は必要だけども、会社なんてもうなくてもいい」ということをおっしゃっていて、私は衝撃を受けました(笑)。これも社員の自立ということと関連するお話だと思うんです。背景にある思いを教えていただけますか?

青野:日本人はすぐに「会社のために」って言いますよね。「一人のわがままで会社に迷惑をかけてはいけない」とか、「これは会社の方針だから」とか言われるとなぜかみんな従ってしまう。でも、そもそも「そこで言う会社って何?」って話なんです。「会社」なんていうのは人間が作りだした概念でしかありません。その場には人間しかいないんです。

去年流行ったユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』でも、会社も国家も虚構であるとはっきり書いていますよね。そのとおりだと思うんです。つまり、「会社なんてなくてもいい」というより「もともとない」と言ったほうが正しいかもしれませんね。カッパみたいなものです。みんながあると信じているからあることになっているただの虚構なんですよ。

前川:カッパのために働くのは確かにバカバカしい(笑)

青野:だから、何が大事なのかをもう一度考え直そうと。会社が儲かればいいのか?いやいや、カッパが儲かったってしょうがないよねって話です。大事なのは、社員一人ひとりが儲かることでしょう?カッパの業績を伸ばすために人間が苦しい思いをして犠牲になってどうするんですか。

前川:経営者がそれをズバリ言うことに非常にインパクトを感じますね。

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サイボウズ株式会社
「サイボウズOffice」などのグループウェア製品を手掛けるソフトウェア開発会社。1997年、青野慶久氏らが愛媛県松山市で創業。2000年には東証マザーズに上場し、本社を東京に移転した。青野氏は2005年から代表取締役社長に就任。2006年には東証一部に市場変更。2007年には国内グループウェア市場でトップとなる。働き方の多様化に早くから着手してきたことでも知られ、働く時間と場所を選べる「働き方宣言制度」、最大6年の育児休業、複業の自由化などの斬新な取り組みを実践。2014年「ダイバーシティ経営企業100選」選出、2017年「HRアワード最優秀賞」受賞。Great Place to Work® Institute Japanが実施している「働きがいのある会社ランキング」には6年連続でランクインしている。

構成/伊藤敬太郎