会社なんてカッパみたいなもの。「複業」を通じて一人ひとりが幸福になる働き方を目指せばいい。/サイボウズ㈱ 代表取締役社長 青野 慶久氏-後編

コラム&インタビュー

業務効率化・生産性向上の気運が高まり、働く人たちの多様化も進む現在。急速に変化する社会環境のなか、企業ではどのように人を育てていくべきなのでしょうか?本連載では、人材育成企業FeelWorks代表取締役の前川孝雄が、先進的な人材育成の取り組みをしている企業のトップと「これからの人材育成」をテーマに対談していきます。第2回となる今回は、「100人いれば100通りの働き方がある」をスローガンに早くから働き方の多様化に取り組んできたサイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野慶久さんに「複業」をテーマにお話をお聞きしました。

何より大切なのは一人ひとりが幸福に働くこと

前川:青野社長ご自身は、起業前は伝統的な大企業で働いていたわけですが、今はその当時には当たり前とされていた古い概念を次々に壊していらっしゃる。このような考え方になった原点はどこにあるのですか?

青野:私がサイボウズの社長に就任してからの2年間は、M&Aにことごとく失敗して利益率は下がるわ、離職率は高いわでとにかくひどい経営をしていたんです。そこで目が覚めたんですね。何のためにやっているんだろうと。本当にやりたいことを楽しくやろう、そのために集まったんだからそれができるようにしようという考え方に変えたんです。

前川:とはいえ、上場企業の経営者として収益向上と還元を求める株主を意識しないわけにはいかないのでは?

青野:方針転換して最初の株主総会は大荒れでした(苦笑)。「この会社は理念を大事にします。売上げや利益は二の次です」と言ったら猛反発を食らって。ただ、そういう株主は去っていくんですよ。そして、「社員の幸福を第一に考えるサイボウズっていいじゃないか」と私たちの理念に共感してくれる株主が次第に増えてきたんです。最近の株主総会はファンの集いみたいになっていますね(笑)

前川:それはすばらしい。青野社長の会社経営に対する考え方がよくわかりました。非常に共感するのですが、そうなると、会社というものは今後どうなっていくとお考えですか?

青野:会社はバーチャルな概念であるということを理解したうえで、それを使いこなせばいいと思うんです。バンドみたいなものですよ。そのバンドでなければできない音楽があって、そのためにメンバーが集まる。ただ、同時進行でほかのバンドに参加したって別にいいし、音楽的方向性に違いが出てくれば解散すればいい。また、やりたくなったら再結成すればいいんです。

前川:なるほど、組織は個々の思いに応じて変わっていくものなのだと。そういえば、サイボウズは経営理念を「グループウェア世界一を目指す」から「チームワークあふれる社会を創る」に変えましたよね?そこも変えていっていいということなんですね。

青野:まさにそうですね。いちばん大事なのは、「生きている僕たちが毎日楽しく働けているのか」ということですから。そのために理念がワークしていないのであれば変えたほうがいい。

一人ひとりの幸福のために理念があり、それを実現するために組織がある。この順番を間違ってはいけないんです。「世界一のグループウェアを創りたい」と一人ひとりが思って、そういうメンバーが集まったからそれが理念になったんです。ただし、理念も石碑にしてしまった瞬間カッパになりますから、気をつけないといけません。人の思いが変われば当然理念も変わるんです。

前川:会社が思いを同じくする者が集まる場だと考えたとき、一定のキャリアがあって自己を確立していることがメンバーに必要な条件にはなりませんか?人生経験も仕事の経験も浅い若者はどうしても確固としたものがなく、移ろいやすい面がありますから。