外国人材の職場定着を図るマネジメントのポイントとは?/外国人材コンサルタント 千葉祐大氏

コラム&インタビュー

現在、日本で働く外国人材は146万人にのぼり、10年で3倍以上も増加しています。さらに、今年4月1日より改正入管法が施行。新たな在留資格が運用されはじめたことで、外国人材の受け入れはさらに加速していくでしょう。そんな社会の変化に伴い、日本企業の職場でも外国人材の就労に関する諸問題が表面化してきています。言語、価値観、文化的背景などが異なる外国人材の職場定着を図り、その能力を引き出すため、日本人の人事担当者や現場管理職に求められるマネジメントとはどのようなものか。多くの企業で外国人材マネジメントの研修を行い、のべ6,000人以上の外国人材に関わってきた外国人材コンサルタントの千葉祐大氏に話を聞きました。

外国人材が定着しない2つの原因とは

 

   近年、コンビニエンスストアや飲食店などを中心に、あらゆるところで外国人労働者の姿を目にするようになりました。

彼らの大半は「資格外活動」という在留資格で就労している外国人留学生のアルバイトです。この4月から改正入管法で「特定技能」という新たな在留資格が創設されましたので、これからはコンビニエンスストアや飲食店だけでなく、建設業や製造業といった人手不足が深刻な業種でも、ブルーカラーの外国人材がどんどん増えていくでしょう。しかし、増加するのはブルーカラーだけではありません。主に「技術・人文知識・国際業務」という在留資格で就労するホワイトカラーの外国人材も、今後さらに増えていくのは間違いありません。

   ホワイトカラー外国人材の増加も人手不足が影響しているのでしょうか?

もちろん、その側面もありますが、日本企業が外国人材の優秀さ、有能さに気付き、採用を強化していることが大きいのではないでしょうか。私は大学で外国人留学生の指導にあたっていますが、日本人にはない高いスキルを有する人材がたくさんいます。語学能力でいえば、3カ国語は当たり前。5カ国語を操る人材も珍しくはありません。講義で日本人と外国人にディベートをさせても、勝つのはほとんど外国人。プレゼン力も外国人のほうが優っています。つまり、シンプルに日本人よりも優秀・有能だから、外国人材を積極的に採用する企業が増えているのです。また、優秀な外国人材を組織に迎え入れることで、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、イノベーション創出につなげたいという狙いもあります。

   日本企業における外国人材の受け入れ態勢も整備されてきているのでしょうか?

いいえ、大手企業であっても、受け入れ態勢は決して十分とは言えません。外国人材の定着率は総じて低く、「3年目のカベ」があると言われています。その主な原因は「コミュニケーション」と「キャリアパス」の2つにあります。

 

指示は「言語化5割増し」+「最低3回繰り返す」

   コミュニケーション上の問題とは?

私は外国人材をマネジメントする日本人管理職向けの研修を行う機会が多いのですが、その際にいつも出てくるのが、「指示が正しく伝わらない」という声です。そして、日本人管理職の多くが「部下の日本語能力が乏しいから」「部下が日本の商習慣を理解していないから」と、あくまで原因は外国人部下のほうにあるという認識を持っています。しかし、それは大きな誤りです。指示が正しく伝わらない背景には、日本人と外国人のコミュニケーションに対する考え方の違いがあります。

   それはどのような違いなのでしょうか?

日本人の会話は「聞き手責任」のコミュニケーションスタイルと言われます。「本音と建前」「阿吽の呼吸」「暗黙の了解」「空気を読む」といった言葉があるように、話し手との上下関係や会話の背景、前後関係などをふまえて、聞き手が相手の言いたいことを察しなければいけません。そのため、話し手は「わかりやすく、明確に伝えよう」という意識が希薄になりがちです。

一方、日本以外の多くの国は「話し手責任」のコミュニケーションスタイルですから、話し手のほうにきちんと伝える義務があると考えます。相手の言葉の裏を汲み取るという意識もありませんから、すべて相手から受け取った言葉のとおり対応します。結果、日本人の話し手の意図とは違う対応をすることがあり、互いにストレスを抱えることになるわけです。

   このような問題を解消するには、どうすればいいのでしょうか?

ポイントはいくつかありますが、特に重要なのは「ハッキリと具体的に細かく伝える」こと。「これくらいは言わなくてもわかるだろう」という考えは捨てなければいけません。「なぜ」「いつ」「誰に」「何を」「どのように」というポイントを、具体的な数字や固有名詞を交えながら、一つひとつ言語化することが大切です。私はこれを「言語化5割増しの鉄則」と呼んでいます。外国人材に指示をするときは、日本人と比べて5割増しで言葉を重ねる。そのくらいでちょうどいいと思ってください。

さらにもう一つ、「何度も繰り返し伝える」ことも重要です。日本人は会話のなかで同じ言葉をあまり繰り返しません。何度も繰り返すと「くどい奴だ」と嫌われてしまうからです。加えて、すべて説明しなくても相手が意を汲んでくれるので、しょっちゅう言葉を端折ります。しかし、これは日本人同士のみで成立するコミュニケーション。外国人材に指示をするときは、すべて細かく説明するのはもちろん、何度も繰り返し伝えるのが鉄則です。最低3回は繰り返したほうがいいでしょう。繰り返し説明しても、外国人材はけっして「くどい」とは思いません。むしろ、「これはきちんとやらなければマズイ」と身を引き締めてくれるはずです。