部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」 第3回:上司の器の大きさを感じた体験

 部下は上司からどのような働きかけを受けたとき、上司のリーダーシップを認めるようになるのか。滋賀大学の小野善生教授が独自の調査で明らかにした、部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」を具体的な事例を交えて解説する。

「感謝」のリーダーシップとは

 部下が上司のリーダーシップを認める3つの体験である「開眼」「共鳴」「感謝」のうち、第1回は部下が「目から鱗が落ちる体験」をすることによってもたらされる「開眼」のリーダーシップを、第2回は「上司に思いが通じる体験」によってもたらされる「共鳴」のリーダーシップを解説した。いよいよ最終回の今回は部下が「上司の器の大きさを感じた体験」をすることで生成される「感謝」のリーダーシップについて説明する。

 「感謝」のリーダーシップとは、目標達成できるような環境づくりを上司が率先して行うことによって、部下が上司に対する感謝の気持ちを持つことによってリーダーシップを認めるというものである。

 「感謝」のリーダーシップの特徴は、部下がプロフェッショナルやベテラン社員といったような専門性や仕事経験で同等あるいは部下が上回っているような人間関係においてよく見受けられる。なぜなら、部下が上司と同等の専門性やスキルを有している場合、上司が指導的な振る舞いをすれば反発するだろう。逆に、個々の部下が有する専門性やスキルを尊重して仕事をしやすい環境を上司が創り出せば、専門性やスキルを尊重されて、なおかつ、仕事がしやすいので、部下は上司に対して感謝の気持ちを持つようになる。そこに「感謝」のリーダーシップが生成されるというわけである。

ケース1 自由闊達に議論できる場づくり

 製薬会社Z社のアルツハイマー型認知症治療薬の探索研究チームのメンバーは、プロジェクトのHリーダーがプロジェクトチーム内に自由闊達に議論できる場づくりをしていたことにリーダーシップを認めていた。

 プロジェクトチームのメンバーの話によると、プロジェクトを進めるにあたっては、チームリーダーがトップダウンで研究の方向性を決めることが多く、メンバーがものを言えることはあまりなかったという。ところが、Hリーダーの場合は、メンバーの意見に対して積極的に耳を傾け、発言の機会を与えるようにしていた。

 当時Z社の研究所は、若手社員を積極的に採用しており、チームメンバーは若手中心の構成となっていた。当然のことながら、チームリーダーとメンバーの間にはジェネレーションギャップもあり、メンバーが積極的に発言しにくい関係でもあった。しかし、いくら若手であっても高度な専門性を有した研究者なので、一方的にコントロール下に置かれるとモチベーションは上がらない。それに対してHリーダーは、メンバーに発言する機会を設けて、アイデアを活かしていった。メンバーたちは、自分たちの意見やアイデアに耳を傾けるHリーダーに対して、「感謝」のリーダーシップを持つようになったのである。

 メンバーの語りに対してHリーダーは「若手研究者中心のメンバー構成であったので、メンバーに積極的な発言の場を設けることで、プロジェクトメンバーとしてより主体的にプロジェクトへの関与を促し、成長を促すという若手育成の意図を有していた」との見解を示している。

ケース2 自由裁量の余地を認める

 同じく製薬会社Z社のアルツハイマー型認知症治療薬の探索研究チームのケースであるが、Hリーダーは自由闊達に議論できる場を設けることに加えて、研究の方向性や達成目標は決めるが、研究方法や行動に関しては自由裁量の余地を認めていた。それぞれのスタイルを尊重した研究活動を実施できるところに、メンバーはHリーダーに対して「感謝」のリーダーシップを認めるようになったのである。

 自由闊達に議論できる場を設けたケースと同様に、自由裁量の余地を認めるというHリーダーの行動は「エキスパートとして個々のメンバーを尊重している」という点で共通している。自由闊達に議論できる場においては、チームへの積極的な関与を認めることであったが、自由裁量の余地を認めることについては、個々のメンバーをエキスパートとして信頼し、成果を期待していたのである。メンバーは高度な専門性を有するエキスパートとして認められ、仕事を任せてもらっているというHリーダーに対する感謝の念を持つことで、「感謝」のリーダーシップを認めたのである。

 一方、Hリーダーはメンバーの語りに対して、「研究者には裁量の余地を与えないことには成果につながらない。また、そうすることによってチームが活性化して、メンバーが互いに刺激しあえる環境がもたらせると考えた」という意図を述べている。

「感謝」のリーダーシップに必要なもの

 「感謝」のリーダーシップでは、部下が自分たちの能力を上司が信頼し、能力を発揮できる場づくりをする「器の大きさを感じる」はらかいに感謝することによってリーダーシップを認めるというものである。ここで大事なのは、上司はあらゆる面にわたって部下より優れているという考えを持たないことである。上司は個々の部下の特性を尊重し、能力をいかんなく発揮できるようにプロデュースするという意思を持つことが「感謝」のリーダーシップを発揮するためには必要なのである。

 

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