なぜ、彼らは銀行を去ったのか?~実際に銀行を離職した若手社員の声から早期離職防止のヒントをつかむ~

コラム&インタビュー

前例がないことから、営業の仕事にチャレンジできないもどかしさ

「それならば営業として働いてみたい」と、川田氏は思い切って上司へ申し出た。しかし、上司はまともに取り合ってくれなかったと言う。その信用金庫では、これまで女性の営業担当が一人もいなかったのだ。

そんなとき、当時入社7年目の女性総合職の先輩・田中氏(仮名)との出逢いがあった。川田氏同様、田中氏も営業の仕事を志望していたが、なかなか希望が通らなかったと言う。そこで、彼女は営業への配属希望者・配属予定者を対象とした営業研修に手を挙げた。研修は、実際に地域の個人・法人を訪問して、自社商品を案内し、その数字・成果を競うシンプルなもの。田中氏は「研修で結果を示して、上司にもう一度だけ直談判しよう」と、決意を新たにしていたそうだ。

結果として、田中氏はトップの成績を上げた。女性社員がトップに立ったのは、同研修開始以来初の快挙。しかし、その後も、彼女が営業に異動することはとうとうなかった。上司から「もう少し経験を積んだら」「そのうち機会があれば」などと、お茶を濁されたのだと言う。

信用金庫での将来には、「営業」のキャリアは用意されていない

「一番納得いかなかったのは、田中さんも私も『もっとお客さまの力になりたい』という思いから営業を志望しているのに、それに対して上司が真剣に向き合ってくれないことでした。もちろん、組織の人事において、個人の希望が通らないことは珍しくないですし、ある程度は仕方がないと思っています。でも、今の会社で自分が営業のキャリアを歩むことはないと思うと、将来に希望を持つことができなくなってしまい、日々のモチベーションも低下するばかりでした」

しばらくして、川田氏は信用金庫を退職した。現在は、金融商品から化粧品へ商材を変え、一人ひとりの肌の悩みや願いに寄り添い、それに対してアドバイス・提案をしながら、営業活動を進めている。お客さまが肌トラブルで悩んだ時に頼りにしてくれたり、化粧品を気に入って感謝の言葉をかけてくれたりしたときが、最もやりがいを感じるのだと言う。