部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」 第2回 上司に思いが通じる体験

コラム&インタビュー

 部下は上司からどのような働きかけを受けたとき、上司のリーダーシップを認めるようになるのか。滋賀大学の小野善生教授が独自の調査で明らかにした、部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」を具体的な事例を交えて解説する。

「共鳴」のリーダーシップとは

 部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」のうち、前回は部下が「目から鱗が落ちる体験」をすることによってもたらされる「開眼」のリーダーシップについて説明した。今回は、部下が上司のリーダーシップを認める2つ目の体験である「共鳴」のリーダーシップについて説明する。

 「共鳴」のリーダーシップとは、部下が上司との仕事のやり取りの中で、仕事に対する思いや考えにふれて、自らの思いや考えと通じるところが見い出せたときにリーダーシップを認めるというものである。このリーダーシップの特徴としては、上司と部下が思いを共有することによって生成されるので、仕事経験を共有する時間が必要である。さらに、部下は自らの仕事の思いや考えが確立していることが条件となる。

 部下にとって「共鳴」のリーダーシップとは、上司の仕事に対する思いや考えが自らの思いや考えと通じていると認識することによって、「この上司なら自分のことを理解してくれる」という信頼と「この上司とならばやっていける」という確信がもたらされることよって生成されるのである。

ケース1 部署内の組織再編に理解を示す

 大手電機メーカーE社の電機部門人事部で名部長と呼ばれていたG部長は、部長に就任して早々に人事業務を職能担当別で組織されていたものから事業部別の担当に再編した。事業部別の担当に職場が再編されることによって、特定の人事業務に注力するのではなく、総合的に人事業務をこなすことが求められた。

 当時中堅社員であったSさんとFさんは、G部長就任当初のいきなりの組織再編に戸惑うというよりも、むしろ、「その方がいい」と思った。Sさんは「経営に役立つ人事情報の提供という観点から事業担当別の組織編成は効率的である」と解釈。G部長の組織再編に共鳴し、そのリーダーシップを認めた。一方、Fさんは「部下が当事者意識をもって事業に取り組むために改組したのだ」と解釈。同じくG部長の組織再編に共鳴してリーダーシップを認めた。

 G部長は組織再編の意図に関して、事業活動全体から見て人事業務を捉える考え方を持つことが必要であり、事業部別の担当にすることで仕事経験を積ませるというという2つの意図があったとしている。つまり、SさんとFさんの解釈は、G部長の意図に通じており、「共鳴」のリーダーシップにつながっていくのである。

ケース2 プロジェクトへの熱い思いを受けとめる

 製薬会社Z社のアルツハイマー型認知症治療薬の研究開発チームのHリーダーは、並々ならぬ意欲でこのプロジェクトに取り組んでいた。Hリーダーは、新薬開発における最初の研究段階では、探索研究と呼ばれるプロジェクトチームを率いていた。

 当時のZ社の研究所における戦略は、疾病領域別に研究室が組織され、それぞれの研究室が新薬のプロジェクトを立ち上げる。そこで互いに切磋琢磨して、新薬を開発するというものであった。当然のことながら、見込みのないプロジェクトは脱落していく。プロジェクトが存続するためには、着実な進展がなければならない。

 そもそも、新薬の候補となる化合物は容易に合成することはできない。試行錯誤の繰り返しの果てに辿り着くものである。それゆえ、チームにとっては、迅速な実験結果のフィードバックを得ることが必要不可欠なのである。とりわけ、化合物の毒性を判定する安全性部門は実験に時間を要し、なおかつ、プロジェクトを掛け持ちで担当していたので、プロジェクト間で依頼が殺到していた。プロジェクトリーダーにとっては、安全性の実験結果のフィードバックデータをいかにスムーズに得られるかどうかがポイントになっていた。

 安全性担当のAさんは、Hリーダーがあまりに多くの実験依頼をするので「戦略性をもって依頼してほしい」と要請したところ、Hリーダーは烈火のごとくに怒って、自らのプロジェクトに対する気持ちをぶつけた。ところが、Hリーダーは感情的に熱く思いをぶつけるだけではなく、実験依頼でないときも顔を出してAさんと飲みに誘って思いを語ることもあったという。そのようなやり取りの中でAさんは、Hリーダーのアルツハイマー型認知症治療薬を開発するという断固たる思いに共鳴し、彼のリーダーシップを認めるようになったのである。

 Aさんの語りに対してHリーダーは「当時は是が非でもプロジェクトを成就させたいという強い思いとプロジェクトメンバーの研究環境をバックアップするのはリーダーの役目であるという強い使命感で動いていた」とその意図を語っている。

「共鳴」のリーダーシップに必要なもの

 「共鳴」のリーダーシップでは、部下が上司との仕事経験を共有する中で、上司の仕事に対する思いや考え方と自らが有する思いや考え方に分かり合えることができると確信することによって生成される。部下が共鳴するためには、上司が仕事に対する思いや考え方を意識して部下に言葉にして伝えなければならない。もちろん、その前提として、上司は部下に伝えられるだけの仕事に対する思いや考え方を確立しておくことが必要である。