部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」 第1回 目から鱗が落ちる体験

コラム&インタビュー

 部下は上司からどのような働きかけを受けたとき、上司のリーダーシップを認めるようになるのか。滋賀大学の小野善生教授が独自の調査で明らかにした、部下が上司のリーダーシップを認める「3つの体験」を具体的な事例を交えて解説する。

リーダーシップのカギを握るのはフォロワー

 リーダーシップと言えば、その中心にはリーダーの存在がある。しかし、いくら声高にミッションやビジョンを打ち出しても、振り向けば誰もついてこない人にリーダーシップがあるとは到底思えない。つまり、リーダーシップは、リーダーについてくる人々、すなわち、フォロワーがいないことには成立しないのである。言い換えると、「部下がどのような体験をしたときに、上司のリーダーシップを認めるのか」という観点からリーダーシップを探求することが必要なのである。このような観点から筆者が独自の調査を実施した結果、部下が上司のリーダーシップを認める「開眼」「共鳴」「感謝」という「3つの体験」が明らかになった。

「開眼」のリーダーシップとは?

 今回は「開眼」のリーダーシップについて解説する。「開眼」のリーダーシップとは、一言で言えば、部下が「目から鱗が落ちる体験」を上司からもたらされたときにリーダーシップを認めるというもの。具体的には、部下が上司からこれまでの経験では身につけることがなかったノウハウや考え方をもたらされたり、それまで当たり前だと思っていた発想や価値観を大きく見直すきっかけを与えられたりすることによって、リーダーシップを認めるというものである。ちなみに、「開眼」のリーダーシップを認める部下には、仕事の上で学ぶことが多い立場にある新人や若手社員、転職や事業再編で一から学び直す社員が多い。

 部下にとっては、新たな知識やノウハウを手に入れたことや全く異なる考え方や発想法を身につけたことによる喜び、すなわち「目から鱗が落ちる体験」をもたらしてくれたことによってリーダーシップを認めるのである。

ケース1 上司からの意外な問いかけ

 これは大手電機メーカーE社の電機部門人事部で名部長と呼ばれていたG部長のリーダーシップについて、当時若手社員として配属されてきたCさんが語った最初の面談でのエピソードである。

 電機部門人事部に異動したばかりのCさんはG部長との面談に臨んだ。面談の冒頭、G部長は人事業務の考え方についてCさんに問いかけた。そこで、Cさんは、自らの人事業務に対する考え方を述べた。それを聞くなりG部長は「そんな考えではダメだ」と、いきなり全否定のリアクションをした。いきなりのダメ出しにCさんは、ムッとして反論した。それに対してG部長は「ならば、この観点からはどうなの」と質問してきた。それにCさんが答えると、その答えに対してG部長はさらに指摘をしてきた。

 こうしたやり取りが続く中で、Cさんは「G部長は意地悪しているわけではなく、これまでの自分の考え方を見つめ直して、『別の観点もあるのではないか』と諭してくれている」と気づいた。Cさんは人事業務に対する思考の幅が広がり、それをもたらしたG部長に「開眼」のリーダーシップを認めるようになったのである。

 このCさんの語りに対して、G部長は「Cさんに一人前になってもらいたいので、あえて厳しい質問をした。Cさんと真剣な議論のやり取りを通じて、自らの仕事に対する考え方に対して幅を持ってもらいたかったからだ」とその意図を語っている。

ケース2 事業再建のための中期経営計画づくり

 ランプメーカーF社は、かつて大手ランプメーカー出身のカリスマ経営者が立ち上げたベンチャー企業であった。輸出用のハロゲンランプで成長したが、事業環境の変化に対応できず倒産した。F社を再建するにあたって、元重工メーカー管理職のJ氏が再建請負人として派遣された。J社長は残留した経営幹部の意識の変化を促すために、ある取り組みを始めた。

 J社長は残留した幹部社員を集めて、なんと幹部社員主導で再建に向けての中期経営計画を策定するように指示したのである。以前はカリスマ経営者のトップ・ダウン経営にただ従順についていった幹部社員たちは大いに戸惑った。そのような中でも、悪戦苦闘しながら幹部社員たちは協働し、なんとか中期計画案を立案する。J社長はすぐにOKを出すことはなかったが、提出された案に対してその都度詳細なフィードバックをして、中期経営計画を精緻化させていくように促していった。

 ようやく中期経営計画が出来上がった時、幹部社員はそのプロセスを通じて管理職に求められる戦略的思考の重要性を学び、そのような機会を提供したJ社長に対して「開眼」のリーダーシップを認めるようになったのである。

 幹部社員主導で、なおかつ、時間のかかるやり方で中期経営計画作成した意図についてJ社長は「再建が実現して持続的に事業を発展させていくためには、従順な幹部社員ではなく、次世代リーダーとして必要なスキルを身につけ、主体的に経営に関与する幹部社員へと意識を変えてほしいという意図があった」と述べている。J社長は最重要課題を間接的に支援することで、幹部社員の自立性を促したのである。

「開眼」のリーダーシップに必要なもの

 「開眼」のリーダーシップに必要なものは、いかに部下に「目から鱗が落ちる体験」をもたらすことができるかである。そのために、まず上司に必要なことは、部下の成長を後押ししようとする教育的な意図である。いくら教育的な意図があったとしても、困っている部下がいたときに、ストレートに答えを教えてしまっていたら部下は依存してしまう。答えを教えるのではなく、考えて答えを導き出せるようにサポートすることが重要である。サポートのやり方は取り上げたケースのように統一されたものはないが、部下が考える機会を提供し、自発的な意識の変化を促すことが上司には求められる。