「働きやすさ整備」で離職率4%以下に。でも目指すは「心の余白」づくり。本気でぶつかり合う風土を醸成する社長自らの実践とは/さくらインターネット㈱ 代表取締役社長 田中 邦裕氏-前編

コラム&インタビュー

業務効率化・生産性向上の気運が高まり、働く人たちの多様化も進む現在。急速に変化する社会環境のなか、企業ではどのように人を育てていくべきなのでしょうか?本連載では、人材育成企業FeelWorks代表取締役の前川孝雄が、先進的な人材育成の取り組みをしている企業と「これからの人材育成」をテーマに対談していきます。第1回となる今回は、2016年に「さぶりこ」という独自の制度を導入して話題になった、さくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕さんにお話をお聞きしました。

みんなが楽しく働くために必要だから「働きやすさ」を整備

前川 さくらインターネットは、2016年12月に「さぶりこ」というコンセプトで、勤務時間の短縮やテレワークなどの「働きやすさ」を整備するための独自制度を導入しました。この施策はそもそもどのような目的をもって始めたのですか?また、2年以上が経過した現時点での手応えはどうでしょう?

田中 「『やりたいこと』を『できる』に変える」が当社のコーポレートスローガンです。みんなが働きがいをもって、やりたいことに楽しく取り組みたいと考えているんですが、それを実現するには、前提として働きやすい環境が必要。そのために始めた制度です。

結果として、今は、リファラル採用が5割以上になり、離職率も4%以下になりました。有休の取得率も8割程度になっていますから、導入前と比べると会社はいい状態になってきていると思います。

ただし、「働きやすさ」は整備された一方で、チーム単位でみると、現場で人が育つような雰囲気になってないところもまだありますね。「働きやすさ」がうまく「働きがい」につながっていないケースがある。「働きがい」が高まっていい方向に変わったチームもあるんですけど、そのあたりはこれから考えていかなければなりませんね。

前川 チームごとに違いが出てくる要因は何なのでしょう?

田中 新しいことに取り組んでいるチーム、売上げが伸びているチームというのは自然と働きがいも生まれます。あとは、新しく入ってきた人が自由に話せる環境があれば、そのチームは活性化します。しかし、前からいる社員がそういう雰囲気を作れていないチームは、新しい人が言いたいことがあっても口を閉ざしてしまう。そうなると「働きがい」が醸成されるチームにはなりにくいですね。

前川 とはいえ働く時間や場所に関する改革の貢献度は大きかったわけですよね?

田中 もちろんそうです。制度改革で「時間の余白」が生まれると、「心の余白」も生まれます。そうなるとお互いに協力もできるようになりますし、チームの状態はよくなります。ただし、「働きやすさ」に関する制度整備はあくまで楽しく働くために必要な施策の片輪です。「働きやすさ」以外に、会社がちゃんと「働きがい」を醸成するアプローチが必要です。そのへんが足りていなかったと反省しています。

前川 そこは大切ですよね。私は、今、国が推し進めている働き方改革はちょっとバランスが悪いと考えているんです。仕事への満足・不満足を「動機付け要因」(≒働きがい)と「衛生要因」(≒働きやすさ)から説明したハーズバーグの二要因理論で言うと、衛生要因にばかり注目して、そこに国が民間企業経営に介入して無理矢理やらせようとしている。本来的には、動機付け要因のほうをしっかりやらないといけないと思うのですが。

田中 おっしゃるとおりですね。当社も、会社として、衛生要因に関してはさまざまな制度を提供したものの、まさしく動機付け要因のところはチームに任せきりでした。そこは両輪でやる必要があります。