年収1000万円など新卒初任給引上げ vs 中高年人材の給与引き下げ&リストラ-後編

コラム&インタビュー

安易にジョブ型雇用へシフトする企業は優秀人材から見限られる!?

最近、ある大手IT企業経営者から悩みを吐露されました。最先端のIT技術を学んだハイスペックな新卒人材を獲得するため、年功制の給与制度の例外として、初任給を大幅に引き上げたものの、採用は成功しなかったといいます。優秀な若手の給与を従来の2倍以上の年収800万円に引き上げても、世界規模のグローバル企業はさらにその2倍、3倍の高額給与で有能な人材をさらってしまうというのです。その一方で、これまで会社を支えてくれた中堅・ベテラン社員の不満がくすぶり社内の空気がギクシャクし、今となっては後悔しているというのです。

ジョブ型雇用のグローバル競争に挑み、優秀人材を獲得しようとオークションのように待遇競争をしても上には上がいて勝ち目がないうえに、既存の社員との信頼関係も崩れてしまったという話です。

ジョブ型経営社会の行方

欧米の徹底したジョブ型経営の社会は、どのような状況にあるのでしょうか。そこでは、最先端のITやAIを学んだほんの一握りの若手人材などが破格の厚遇を受け、こうした人材を確保できるこれも一握りの世界のトップ企業経営者が破格の役員報酬を得ています。その一方で、十分な知識やスキルを持たない多くの若手を中心に失業率が高いのが実情です。そして努力の末にやっと一定の職に就いても、即戦力に応じた給与が支払われるのみで、知識・スキルが陳腐化してしまえばレイオフされるというシビアな社会です。まさに弱肉強食・優勝劣敗の格差社会なのです。

冒頭の日本企業経営者の悩みは、こうしたジョブ型雇用の入り口に差し掛かった様子を現していますが、その道は本当に正しいのでしょうか。

「金の切れ目が縁の切れ目」の経営で立ち行くのか

この事例は、日本企業が優秀な若手人材の厚遇と、持てるスキルが古くなってきた中高年人材の放出に走るなら、「金の切れ目が縁の切れ目」の経営を選ぶ自覚があるかどうかを問うているのです。

今現在は高いスキルや即戦力が評価される若手世代にも、こうした企業の経営姿勢は伝わります。それは、自分が高スキル・高付加価値の間は厚遇されても、いずれスキルの市場価値が下がれば見放されるというメッセージです。企業の本音に影響され、おのずと若手社員も、より厚遇が得られる次の転職先を虎視眈々と探し続けるでしょう。

一方、早期退職勧奨の対象となる中堅以上の社員は疑心暗鬼となり、企業へのロイヤリティを失います。その結果、企業にとって本当は残ってもらいたいプロフェッショナル人材までが流出する事態も生じるでしょう。批判を恐れずに言えば、自律意識に乏しい人材ほど退職勧奨に応じることなく組織にぶら下がり、最後まで留まろうとするでしょう。こうした悪循環に陥れば、優秀人材の確保どころか人心は離れ、組織経営は行き詰まりかねません。