年収1000万円など新卒初任給引上げ vs 中高年人材の給与引き下げ&リストラ-後編

コラム&インタビュー

社員の自律意識を阻んできた企業のあり方こそ見直しを

伝統的な大手企業経営者や人事担当者ほど、ミドル・シニア社員のモチベーション低下や、自律意識の低さを課題視し、前向きな動機づけが難しいと語ります。しかし、その原因は企業の側にもあったのではないでしょうか。

これまでの年功序列・終身雇用型の日本型雇用では、社員を社内に囲い込み、自らのキャリアを考えさせることなく、組織が命じた役割や仕事に従順に従わせることを是としてきました。社員は、会社の辞令1本で様々な配属先に出向き、求められた仕事を一所懸命にこなすのみでしたから、自らの市場価値を見定め自律的な働き方を磨くトレーニングはしてきていません。にも関わらず、ミドル・シニア世代になった時点でいきなりジョブ型への転換を宣言され、給与の減額や早期退職勧奨を受けるなら、モチベーションが低下するのは当然です。

右肩上がりの経済、若者がどんどん増える社会を前提としていた日本型雇用は、成熟経済、若者が減り続ける現代では、もはや通用しなくなっているのです。こうして、企業内には雇用保蔵と言われる社内失業層が一定割合で存在するようになりました。ミドル・シニア社員の自律意識を阻み、こうした立場に追い込んできた企業の側でも反省が不可欠だと私は考えます。

社員の成長意欲を引き出せる企業が成長する

企業は自らの人材育成のあり方を見直し、ミドル・シニアを含む多様な既存人材の活躍と成長支援に取り組むことで自らの生産性向上をめざすことが不可欠です。ミドル・シニア層を一括りにするのではなく、意識と行動変容が期待できる層から積極的な育成と活性化に取り組みを始める企業も次第に増えてきました。弊社FeelWorksが6月下旬に都内で開催した「50代からの働き方を考えるシンポジウム バブル世代のキャリアシフト ~ミドルの覚醒が会社を元気にする~」には、大企業を中心に100名を超える経営者や人事担当者が集い、専門家や先進的な企業事例に熱心に聞き入り、ディスカッションも白熱しました。共通のキーワードはミドル・シニアの「キャリア自律」であり、社員自身が「自分のキャリアは自分で創る」重要性に目覚め、組織や社会に貢献できる自分磨きを志向した時に、企業とのよきパートナーシップ関係が見られることが報告されました。そして、企業の生産性向上や成長の原動力にもなることが語られていたのが印象的でした。詳しくは、「50代からの働き方を考えるシンポジウム バブル世代のキャリアシフト ~ミドルの覚醒が会社を元気にする~/㈱FeelWorks主催シンポジウムレポート」を参照してください。

組織のビジョンやミッションを明確化し、社員一人ひとりのキャリアビジョンや人生のミッションの実現とシンクロさせることで、個と組織が共に成長していく。日本企業の強みである長期視野と人材育成を、時代の変化に応じて進化させられる企業こそが、持続的な成長・発展を果たせるのです。

前川 孝雄
(株)リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に(株)FeelWorks設立。約400 社で「人が育つ現場」づくりを支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)他多数。前川孝雄の「はたらく論」(ブログ)随時更新中!