建前だらけの外国人技能実習制度を廃し、人材開国へ舵を切れ (後編)外国の若者も人間尊重の姿勢で愛情をもって育てる

コラム&インタビュー

 自分の市場価値や成長に敏感なニーズを理解する

日本の経営者や労働者が今なおメンバーシップ型雇用の感覚や「就社」意識が強いのに対し、外国人材はジョブ型雇用の意識が強いと言えます。ベトナムもジョブ型社会ですから、同国の若者が自分の希望に合ったよりよい仕事や雇用条件の職場へあっさり転職するのは当人たちからは当然のことです。こうした若者は、自分の市場価値や成長の可能性に強い関心を持ち、今の仕事を通じてどう成長していけるか、自分の市場価値をいかに高めていけるかを知りたいと考えているのです。

つまり、当面の給与条件は若干低くても、1年、2年、3年後の自分が成長できる見通しが持てれば、その企業に定着し、意欲を持って働けるのです。先進企業で働きたいという若者は、単に目先の給与の高さだけに拘っているのではありません。先進企業なら優秀な人材が集まり互いに切磋琢磨でき、最先端技術の仕事に携わることで自分の市場価値を高め成長していけることが、何より魅力なのです。

中小企業であっても、世界に誇れる高い技術力やホスピタリティ力のある職場であれば、そうした期待をもって定着してもらうことは十分に可能でしょう。

本人の成長を信じ、愛情と信頼を持って育てる

ものづくりの現場で何人かのベトナム人実習生を受け入れている、ある中小企業経営者から聴いた印象的な話を紹介しましょう。その会社で働く実習生の一人に、非常に意欲的に仕事に取り組む若者がいました。彼の同僚実習生には、なかなか仕事に意欲を持てず、暗躍するブローカーに誘われ疾走しそうになる人もいましたが、そんな仲間の失踪を未然に防ぐことにも協力的でした。彼は実習を終えた後に、その会社がベトナムに開設した海外出張所でリーダーとして活躍を続けているということです。

その経営者が、ある時彼に尋ねました。なぜ君は不安も多い実習生時代から根気よく仕事を続け、疾走することもせず、さらに会社のベトナム進出にまでついてきてくれたのかと。すると彼はこう答えたそうです。「社長は私たちを受け入れてくれた3年前に、これからはベトナムをはじめアジアに進出するのが夢だ。だから、これから3年間日本で技術をしっかり学んでほしい。そして、自社がベトナムに進出した暁には現地で一緒に仕事をしたい、と言ってくれました。私はその社長の言葉を信じて、仕事に励んできました。そして、3年間は実際に技能を高めることができました。ベトナム進出の夢も実現してくれました。母国でもゼロからのスタートで大変だったけれど、社長も一緒に汗水流して関わってくれた。社長は約束した夢を一緒に適えてくれたので、ついてこれたのです」。

すなわち、日本人でも外国人でも何ら変わらず、共に会社のビジョンと仕事の夢を共有し、愛情と信頼をもって育てようとするなら、人は働きがいを持って仕事に励み、成長し、期待に応えてくれるのです。経営者・管理者や人材育成担当者は、この普遍の原理を胸に置き、外国人材とも真摯に向き合ってほしいと思います。

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前川 孝雄
(株)リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に(株)FeelWorks設立。約400 社で「人が育つ現場」づくりを支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)他多数。前川孝雄の「はたらく論」(ブログ)随時更新中!