「自律型人材」を育てるための人事制度・階層別研修とは?/トラスコ中山㈱-後編

コラム&インタビュー

部下の自律を促すのはボスの役割。2年ごとの研修でその力を養う

「経営理念もトップのメッセージも掲げるだけでは絵に描いた餅です。また、一人ひとりの社員を研修だけで変えることはできません。経営者の理念を自分の言葉に置き換えて部下に伝えること、日々のコミュニケーションを通して部下の成長を促すことがボスの大切な役割。日々変わる経営環境に対応しつつ、理念に基づいたリーダーシップを磨いてもらうため、2年に1回、ボス全員を対象に実施しています」

なお、一連の研修では、知識・スキルに関するものを除き、社員が教官を務める。ティーチング型の一方的に「与える」研修であれば外部のプロ講師が適任だろうが、コーチング型の「一緒に考える」同社の研修は、上司・先輩が教官だからこそ最大の成果が得られると考えている。

最後に、同社のユニークな取り組みである「白紙の部屋研修」にも触れておこう。自分で考え、行動する社員を育てることを目的としたこの研修は、手を挙げた社員に、30万円の軍資金と1カ月の期間を与え、自分で設定したテーマを研究するというもの。


ファッションの街としても知られる裏原宿にて、期間限定のプロツールショップを展開。既成概念にとらわれない斬新な発想や行動力がうかがえる。

「新しい商品でも、販売方法でも何でもいいんです。とにかくゼロから自分で考え、研究成果を経営会議で提言してもらいます。10年ほど続けており、毎年1、2名が参加。まだ事業化した例はないのですが、最近は、裏原宿に期間限定のプロツールのショップを出すなど、社内の既存の考え方にないアイデアも生まれるようになってきました。この研修を通して新しい発想ができるイノベーターにも育ってほしいですね」

一連の施策を通して、社員の意識は確実に変わってきた。しかし、まだまだ課題はあると木村氏は言う。

「例えば、女性社員が管理職になりたがらないという状況は、他社と同様、当社でもあります。これは女性社員ではなく上司の責任なんです。仕事がある程度できるようになり、自己完結しがちな7年目、8年目がターニングポイントですね。ここに至るまでにボスがどれだけチャレンジ精神を育てられるか。今はそれが研修でも重要なテーマになっています」

働く人たちが多様化し、働き方改革が求められる昨今。柔軟な働き方と成果や生産性向上を両立させる経営観点からも、人生100年時代となり一人ひとりのキャリア開発観点からも、「自律」が重要なキーワードになっている。

そのため、多くの企業が自律型社員を求め、その育成に取り組んではいる。しかし、思うような成果が上がっている企業は少ない。特に大企業の場合は、体に染みついてしまった組織に依存するサラリーマン体質を1回、2回の研修で変えられるものではない。ましてやトップが形だけのメッセージを発したところで社員のハートには届かない。常に現状の課題に向き合い、未来を見据えて人を育てるトラスコ中山の終始一貫した人材育成のあり方は大いに参考になるはずだ。

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