早期退職で失敗する人とは? ~「定年=リタイア」ではない時代に、50歳から生き生きと働き続けるために~(後編)

コラム&インタビュー

《その⑤》経営の視点や知識に欠ける人

大企業ではスケールの大きいビジネスに関われる一方で、分業制のなかで長くキャリアを重ねてもビジネスの一部しか経験できていない、という場合が少なくありません。技術畑だけで働いてきた人は営業・マーケティングはよく解らない、営業一筋の人は商品開発や人事・経理は知らないといったことは珍しくないでしょう。自分の手掛けてきた範囲の経験・知識だけに詳しいミドルが、もし起業したならば会社経営を成り立たせることは難しいでしょう。資金調達や会計や税務対策、仕入れや在庫管理、人の採用や管理などすべてのビジネスフローがカバーできなければ、会社がすぐに傾いてしまいます。

また、中小企業への転職でも同様です。例えば技術者が大企業時代の感覚で中小企業経営者に対して大規模な研究開発の提案をしても、「うちにそんな資金があるわけない」と一蹴されてしまうでしょう。こうした経営に関する知識は、自分から関心をもち視点を切り替えて情報収集をするつもりになれば、現職の企業でも十分学ぶ機会はあるはずです。ですから、退職を急ぐ前にまずその努力を行うべきです。経営に関する視点や知識が不十分な人は、辞めてはいけない人です。

《その⑥》自分のことしか考えていない人

ミドルの第二、第三の職業人生では、社会や周囲への貢献意識が非常に大切です。しかし、長年一つの会社で働いていると、ビジネスの本質的な目的を見失い、次第に利益優先主義に陥ってしまう場合もあります。昨今頻発する大企業の不祥事や隠ぺい問題は、内向きの組織論理を優先し顧客や社会への貢献意識を見失った結果ではないでしょうか。

また、人生の成熟期におけるキャリアでは、「やりがい」と共に、これまで以上に人との「つながり」も重要になります。「自分さえ稼げればいい」「自分だけ得をすればいい」という考え方では、自分自身も働くモチベーションを保つのが難しくなりますし、個人プレーに走る中高年からは徐々に人が離れていくだけです。

また、部下や後輩に対するマネジメントや人材育成のあり方も、従来のピラミッド型組織の上からの指示・命令・指導ではなく、多様な部下一人ひとりとしっかりコミュニケーションをとり、各自の価値観や強みを理解し、それに応じた支援が求められるようになってきています。つまり今の会社で自分のことだけを考えて働いてきたミドルは、会社にいる間に働く目的や考え方を根本的にリセットすることが大切なのです。それができないうちは辞めてはいけません。