女性活躍推進の本番はこれから (前編)女性活躍推進の流れと当面する課題とは

コラム&インタビュー

女性幹部候補の絶対人数の不足

女性活躍の1つの指標である女性管理職・幹部への登用の状況を見ると、先述のとおり中堅層やリーダー層の厚みが増し、このなかから課長職や一部部長職に就く女性が次第に出てきています。そして、これに続いて執行役員や取締役にも女性の活躍が期待されるところですが、女性役員の比率に至っては、ごく少数に止まっているのが現状で、今後の大きな課題の1つです。

その大きな理由は、女性幹部候補の絶対人数の不足です。最早、年功序列の幹部登用は時代遅れとは言え、企業経営の中核を担う人材となるための一定の経験と実績は不可欠です。そして、先述の女性活躍の始動期や本格化の時期から見れば、管理職・幹部経験がある女性の数がまだまだ不足しているのが現状なのです。

男性側の抵抗と非協力

そうした中で、もう一つの壁は男性側からの抵抗圧力です。今日、伝統的な大企業は成熟期を迎え、再成長期に挑むため、組織や事業の再編を始めており、変革スピードを上げるために意思決定する立場の経営幹部ポストの数を絞りつつあるのが現状です。一方で、グローバル化の潮流もあり、世間や投資家から女性幹部比率を厳しく問われる企業は、女性役員の数を増やすための女性枠登用をせざるを得ない状況です。

すると、数少ないポストを奪い合う40~50代のミドル男性からは厳しい視線や批判を浴びるというジレンマ。大きな時代の流れで見れば、過去半世紀にわたり男性が優遇されてきたことの揺り戻しなのですが、現代に働く男性からは「ゲタを履かせた人事」「数合わせのための実力抜きの登用」といった不平不満が聞こえてきます。この男性側の抵抗と非協力が、女性の管理職・幹部登用を難しくしている要因の1つになっているのです。

女性のトップ人材は奪い合い!?

先日、あるエグゼクティブサーチ(役員などの経営幹部や高度専門人材などを外部からスカウトする業務)の会社幹部に聞いたところ、現在「社外取締役かつ女性」という人材需要が沸騰している反面、供給が絶対的に不足しているとのことです。日本の一部上場企業2,000社強で役員ポストが各10人と仮定した場合で、必要役員数2万人のうち2~3割を女性にしようとすれば4~6千人の人材が必要ですが、到底そのような数は供給できないというわけです。

上場企業の役員人事となれば投資家の目も厳しく、それに相応しい経歴が求められ、ある一定規模の企業での経営経験やグループ会社でのトップ経験などが必須ですが、そうした経験のある女性は極小です。そこで、外資系企業で経営経験を積みかつ日本企業で働くことを是とする女性人材の奪い合いの状況だといいます。

また窮余の策で、女性の大学教授や弁護士・公認会計士などの士業を役員に充てる例もあります。しかし、そうした人材は専門領域でのアドバイスはできても、経営に関する総合的判断や意思決定者の一員としては十分に期待できないという声もあるそうです。

以上の通り、現在、女性のトップリーダー人材が極小に止まっている原因は、歴史的経緯からの経営幹部経験者の絶対人数の不足に尽きると言えます。しかしこれを裏返せば、女性リーダー・管理職候補層の厚みが増しつつある今、この層からトップを育成するよい道筋がつけられれば、将来の女性トップリーダー輩出につながる可能性は大きいということです。次回は、女性トップリーダーを今後いかに育成していくか、その方策について考察していきたいと思います。

後編に続く

前川 孝雄
(株)リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に(株)FeelWorks設立。約400 社で「人が育つ現場」づくりを支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)他多数。前川孝雄の「はたらく論」(ブログ)随時更新中!