制度・仕組みの限界
上記のような背景に加えて、技能実習制度には仕組みとしての限界もあると言えます。技能実習生の日本の受け入れ先は、人材不足に喘ぐ中小企業などそもそも労働条件や環境が整いにくい現場が多く、十分な育成がなされにくいのです。また、若者は職人的な働き方を自分で見て覚えることが求められることが多く、ただでさえ言葉や文化が異なる外国人からコミュニケーションをとって技能習得を図ることは困難な場合が多いでしょう。
さらには、実習生は3年から5年で帰国することが予め決まっていることも育成の壁になっています。受け入れ企業としては、職場に定着させることに苦心し、数年にかけて技能を身につけさせたところで帰国されてしまいます。そこからまた新たな人材がやってきて一から教育をし直すという砂上の楼閣のような仕組みとなっているのです。したがって、高い技能が求められる中核人材として本気で育てようとするインセンティブは働かず、単純労働に配置して安価な非正規雇用の代わりに活用することになりがちです。
ベトナムの技能実習生が急増。「奴隷労働」の実態も
実は、日越間の合意もあり、上記の技能実習生32万8,360人うち、国別ではベトナムが16万4,499人と半数以上を占めています。そして上記の在留資格取り消し問題でも、ベトナムが416件(取り消し全体の50.0%、「留学」資格取り消し等含む)と最多です。このベトナム人実習生の厳しい実態は、移住労働に詳しいフリージャーナリスト巣内尚子氏のルポ『奴隷労働』(花伝社、2019年3月)に生々しく紹介されています。
同書では、ベトナムの経済的に豊かとはいえない農村の若者が、母国での年収の数倍、日本円にして100万円もの渡航前費用を親族中からかき集めて借金し仲介事業者に支払い、日本での高賃金と技能習得を夢見て入国してくる実情が描かれています。しかし豊かさを求めてやってきた日本では、実習先での10万円そこそこの予想外の低賃金、過労死ラインを超える残業、休日も僅かな職場に愕然とする人も少なくありません。家賃や生活費を差し引いた残りを借金返済と母国家族への仕送りに充てるギリギリの暮らし…。極端なケースでは、知らぬ間に原発事故の除染作業をさせられていた若者もおり、技能実習の本旨とは程遠い正に現代の奴隷労働とも言える様子が描かれており、強い憤りを感じます。
巣内氏は、日本では実習生の失踪が問題視されるが、上記のような過酷な労働条件のもと、相談相手もいない孤独な環境下で真っ当な転職活動もできず、悩み苦しんだ実習生が脱走せざるを得ない仕組みこそ問題だとしています。また、ここにつけ込んで、実習生の逃亡を促しもっと稼げる仕事へ誘い出すブローカーが暗躍する実状も紹介しています。実習生一人ひとりは感情を持つ人間です。未来の可能性あふれる若者なのです。もしこのベトナムの若者が自分の息子や娘だったらと思うと、胸が締め付けられそうな思いにかられます。