50代からの働き方を考えるシンポジウム バブル世代のキャリアシフト ~ミドルの覚醒が会社を元気にする~/㈱FeelWorks主催シンポジウムレポート

コラム&インタビュー

2 何が新しいミドルに起きているのか? 変わる転職市場

前述のような社会構造の変化、組織統治の変化は転職市場にも大きな影響を与えていることも藤井氏は指摘。

「企業は、自ら仕掛け、変わり続けなければコモディティ化の波に飲まれ、短命に終わってしまう。だから、新たな事業に打って出るために、社内にはいない異能人材の獲得を強化しています。個人も、今までの業界や職種で培ったキャリアを違った業界・職種で展開するために、自らが成長できる分野に転身するという動きが大きくなっています。ここでのキーワードは多重活用です。自分の持っている能力は実は業種や職種、規模が異なる企業でも活用できるんだということを意識した人たちが活発に動き始めているんです」(藤井氏)

実際、今の転職市場を見ていると、業種・職種の壁を越え、自らの経験知を多重活用している事例は枚挙に暇がないという。藤井氏が挙げたのは、学習塾の教室長10年やってた人が携帯ショップの店長として大成功したケース。保護者への対応力と接客力、塾講師のマネジメントとアルバイト店員のマネジメントなど、業種が違っても共通して必要とされる筋肉(ポータブルスキル)を活かして活躍することは十分可能なのだ。

このような動きのなかで、「今まで転職市場にあったいろいろな壁がすごい勢いでメルト(融解)している」と藤井氏。リクルートエージェントのデータを見ると、同業種に転職する人より、異業種に転職する人のほうが伸び率は高いという。また、2009年から2018年にかけての40代の転職決定者数の推移を見ると4.5倍にまで増加している。

「自分の経験、知識を多重活用することによって、越境するチャンスが確実に広がっています。ミドルの本来の力を再定義して、彼らのもっている、深い所に眠っているポータブルスキルや人への情熱、さらに『新しい社会を創っていくんだ』という貢献心を、もう一度掘り起こしていくことがとても大事な時代になっていると思います」(藤井氏)

3 どう新しいミドルに期待するのか? 変わる関係づくり

では、このような社会構造や転職市場の変化を受けて、企業はミドルとどのような関係を構築していけばいいのだろう。藤井氏は、UIターン転職者の追跡調査のデータをもとに、越境がうまくいく人に共通するポイントを3つ挙げる。

「一つは、新しい場所で期待される役割が明確になっていること。もう一つは仲間を作ること。これは、メンターをもつことや、斜め、横に広がる複数のネットワークを仲介することも含みます。そしてもう一つが、アンラーニング(学習棄却)。過去の知識・経験は活かしつつ、今までやってきたことは捨て去る。禅問答のようですが、やはり40代・50代にはこれが難しいんですね」(藤井氏)

そこで新しいミドルを受け入れ、その力を活かすために企業にできる支援とは何か。藤井氏は、日本の企業においては、職務、職業、組織への適合以上に、上司への適合、集団への適合が、入社後の成果に大きく影響するという研究を紹介しつつ、「上司の重要性」を強調。

さらに、モチベーション研究の分野で有名な、ハックマン─オルダム職務特性研究について紹介し、やる気を生み出す要素を以下のように解説した。

「この研究では、やる気と満足度に影響を及ぼす仕事の5要素として、①技能多様性(求められるスキルの多様さ)、②タスク完結性(部分ではなく全体を把握できるかどうか)、③タスク重要性(他者に影響を与えるかどうか)、④自律性(仕事の進め方への関与)、⑤フィードバック(自身の実践の効果に対する評価)を挙げています。中でも重要なのが、自律性とフィードバック。ワークス研究所の研究でも、自分で裁量権をもって仕事に取り組み、上司・顧客・同僚から評価を得られる職種ほど、やる気が引き出されるという結果が得られています」(藤井氏)

以上を踏まえ、企業や上司にとってのキーワードとして藤井氏が挙げたのが、ミドルへの「キタイ(期待)」だ。それぞれが自分の選んだ仕事に就き、そこで花開くことを企業や上司は期待し続けること。性急に結果を求めない関係作りが重要なポイントになるという。

「シフト」「メルト」「キタイ(期待)」。藤井氏はこの3つのキーワードによってこれからのミドルの働き方を示し、こう締めくくった。

「日本的経営の強みは、ちゃんと人にコミットし、成長するまでつながり続けるというところにありました。ですから、企業は、終身雇用ではなく、仮に会社を辞めてもつながり続ける『終身信頼』をミドルとの間に構築していくこともできると思うんです。そのとき、ミドルには、今の職場、自分の人生だけではなく、未来の子供たちとか、社会とか、もっと大きなものに使命を捧げるようなプランを描けることが大切になるのではないかと、私は考えています」(藤井氏)