2019年度採用からあえて「留年採用」実施。マイナスと思われる要素に注目したわけは?/㈱東急エージェンシー 人事・総務局 人事企画部 仲野 大輔氏-後編

コラム&インタビュー

前川孝雄の対談後記:1人あたり2~3億円の投資である新卒採用で、正攻法ではなく他社がやらない冒険ができるか

ほかの会社がやらないことをやる。そこが東急エージェンシーの採用戦略の特色だろう。今回メイントピックとして取り上げた「留年採用」にしても、2016年度入社組に実施した「顔採用」にしても、リスクを取って他社との差別化を図るという点は共通している。一般論として、大手になればなるほど採用で冒険はしづらくなる面があるだけに、東急エージェンシーの取り組みはインパクトがある。

採用コストに関しては、よく公募媒体を活用したら1人あたり50~60万円だとか、エージェントを介した場合は年収の何割だとかという論じられた方をするが、採用した人の生涯賃金を考えれば、実質的には1人あたり2~3億円の投資を決断しているという見方もできる。それだけに冒険がしづらいのはよくわかるのだが、手をこまねいていては厳しくなる一方の採用競争に負けてしまう。自社に合った人材をどう取りに行くか、東急エージェンシーの方法は一つの参考になるはずだ。

また、日本企業でジョブ型雇用への移行が始まりつつあるなかで、同社が職種別採用にも力を入れる点にも注目したい。経団連トップが終身雇用の維持は厳しいとのメッセージを発したことでも明らかなように、日本型雇用を作ってきた大手企業は今までのメンバーシップ型雇用を継続していくことをあきらめつつある。しかし、暗黙のうちに終身雇用を保障されることで滅私奉公してきた中高年層がいる日本的な組織において、一気にジョブ型雇用へと全面的にシフトチェンジすることもまた難しい。また年功的な組織で安心したいという若者も少なくない。正解はないなかで、どのように先を読み、中長期的に組織を組み立てていくか。同社が挑んでいるこの課題は、多くの日本企業にとっての課題でもある。

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株式会社東急エージェンシー
1961年、東急グループの一員として設立された広告会社。事業領域は、最高のブランド体験を創出する「コミュニケーションデザイン」、コアアイデアをストーリーにのせて伝える仕組みを作り出す「クリエイティブ」、独自のソリューションツールなどでデータを収集、分析し、最適なマーケティングプロセスを導き出す「マーケティングソリューション」、キャンペーンやイベントなどの「アクティベーション」、プランニングからバイイング、コンテンツ開発や番組プロデュースなどを行う「メディア、コンテンツ」など非常に幅広い。近年は、2016年度採用では「顔採用」を導入、2019年度採用からは「留年採用」を採用するなど、新卒採用に関するユニークな取り組みが注目されており、留年採用は2018年、「日本の人事部」が実施する「HRアワード®」にノミネートされた。

構成/伊藤敬太郎