「就職氷河期世代の再チャレンジ」施策を考える ~潜在的人材の再教育と活躍支援の本格的な仕組みづくりを~

コラム&インタビュー

企業の人材不足の解消につなげる

先日、ある大手IT企業の経営者からこんなお話を伺いました。同社では高度エンジニアを獲得しようと破格の高給を認める新たな給与制度をつくり、既存社員とは別ラインで人材採用に動いたそうです。しかし、GAFA・BATHなどグローバル企業の処遇水準競争などにはとても及ばず、エンジニアの確保は困難な一方、既存のこれまで頑張ってきた社員には不公平感が残り社内がぎくしゃくするなど、思うようにならず悩んでいると言うのです。この例からも、ハイスペックな専門職人材や即戦力人材の獲得競争で勝てるのはごく一部のグローバル企業のみであることがわかります。グローバル人材獲得競争で戦うということは、結局どれだけよい待遇条件を用意できるかに行き着きがちです。そこで日本企業の多くは、ジョブ型雇用への切り替えによる弱肉強食の人材獲得競争の渦中に飛び込み生き残ることは難しいのではないかと懸念します。

優秀なエンジニアは最先端の技術に打ち込める環境や一流のエンジニアと共に働ける環境も重要な誘因になりますが、破格の給与待遇ととともに、どちらが鶏か卵かのジレンマにも陥りがちです。アドバンテージを持つアメリカや中国企業にはなかなか追いつけません。

一方、少子高齢・人口減少のなかで、日本企業の人材不足はますます深刻化しています。企業内外の潜在的な労働力の発掘と活躍支援に向けた人材育成体制の整備を本気で進めることが求められており、就職氷河期世代への対応も一つの選択肢と捉えるべきでしょう。但し、この課題の難しいところは、近年若手の定着・育成とともに盛んになっている女性や中高年者の活躍支援が企業にとって既存社員向けであるのに対し、就職氷河期世代の非正規雇用や就業が困難な人たちは育成対象どころか採用対象にもなっていない点です。そこに企業がどこまで責任をもつべきか、本気で取り組む事ができるのかについては、議論があるところです。

個人的には、就職氷河期世代を望んで採用し育てる気概ある企業・経営者が増えることを願いますが、景気も不透明になってきたなかで現実的ではないかもしれません。したがって、この課題は公的施策による支援のもとに企業の人材確保・育成施策と上手くマッチさせていくことがまず第一義になります。

大企業は、20代から40代までも新入社員として育成を

そんな中でも、あえて企業側ではどのような取り組みが考えられるのでしょうか。

特に大企業では、これまで培ってきた体系的な新入社員からの育成ノウハウを、世代を超えて活用していくことが求められます。そのためには、人材のポテンシャルを年齢で考える見方や、新入社員研修は新卒者向けという固定観念を改めることです。20代でも若くして凝り固まり伸び悩む人もいれば、40代でも柔軟で成長力のある人もいます。今後、政府で検討中の70歳までの雇用保障が現実化すれば、30~40歳の社員を新たに受け入れ本格的な再教育を行い、さらに40~30年間の活躍を支援することも十分に考えられます。これは従来の20歳前後で基礎教育を行い50~60歳までの活躍に備えてきた時間軸を10~20年スライドさせるのです。この先には、成長意欲のある50代のミドル・シニア層が自ら学び直し、次の仕事のステージに備える動きも徐々に始まっていますから、今後は50~60代の学び直しも珍しくなくなるでしょう。

このように、人生100年時代の人材育成のあり方を考えると、多世代型の企業内基礎教育とリカレント教育の整備・展開は重要テーマと考えられるでしょう。例えてみれば、昭和の中期に戦災等で学校教育を十分に受けられなかった中高年世代が定時制の夜間中学校で学び直した時期がありました。発想を切り替えて、新入社員研修はあらゆる世代の正社員教育のスタートと位置づけて考えればよいのです。