新卒一括採用から通年採用へ移行する先にあるもの(後編)魅力ある経営理念・ビジョンと人材育成方針を持つ企業が選ばれる

コラム&インタビュー

ジョブ型雇用へのシフトは学生の不安を高める

最近の学生は、会社に全て身を委ねてしまう就社意識ではなく、プロを目指す就職意識が定着してきている一方で、就職への不安感が強いことも特徴です。「自分はこの厳しく不安定な社会で果たして勤まっていくのだろうか、成長していくことができるのだろうか」という不安です。「人生100年時代」で就業期間が長くなる一方、大企業ですら終身雇用を維持することが難しいことに如実に反応しているのです。先回4月のコラムでも紹介した、新入社員が職場・仕事に期待する最上位項目が「自らの成長が期待できること」とする意識調査結果にも反映しているのです。

容易に想像できるのは、「うちはジョブ型雇用にシフトします」「AIやICT関連の即戦力人材を重視します」といったメッセージを打ち出す企業には、大半の学生は不安を覚え敬遠することになるでしょう。

「一人前に育てる保証付き」の共感採用企業に若者が集まる

そこで、自社では終身雇用の保証はできないけれど、いわば「一人前になるまで雇用し、育て上げる保証付き」の企業だとすれば、学生は安心感と信頼感をもって就職することができます。私の教え子の学生たちに、会社の初任給の水準がどうかより、入社して10~20年の間しっかりと一人前になるまで育ててくれる会社のほうに価値があると話すと、皆納得します。そこで、そうしたメッセージを発することができる会社であれば、ポテンシャルの高い学生を採ることができるでしょう。

本当に魅力的な企業とは何かと考えると、自社の理念、ビジョンをしっかりと打ち出せる企業です。これは、経営トップから現場の隅々まで裏表なく理念やビジョンが浸透していなければできないことです。ここに共感する人材を集めることが企業の持続的な成長に拍車をかけるのです。その企業の理念・ビジョンの実現に向けて一緒に働きたい、またそのプロセスを通じて自分自身も成長したいと思う人材にリーチし採用する。きれいごとと聞こえるかもしれませんが、この原理原則こそが最も本質的で、大切な採用のあり方です。

そう考えると、魅力ある独自の経営理念やビジョンを打ち出しやすい中小企業が「一人前保証」と「共感採用」を覚悟しメッセージできれば、必ずしも大企業より不利なわけではありません。もはや寄らば大樹の陰で安心できる時代ではありません。優秀な若者はすでに理解しています。小さくても、夢や志があり、働きがいと成長の機会をしっかりと提供してくれる企業がより選ばれるようになっていくことでしょう。

今や、学生はいつでもインターネットで各企業にアクセスすることができます。経営理念やビジョン、育成方針などに共感してもらえれば、後は自社が示す採用スケジュールに沿って就職活動に臨んでもらえばよいのです。そう考えれば、今後、一括採用か通年採用かということ自体は企業にとっても学生にとってもあまり本質的な問題ではなくなることが理解できるでしょう。採用時期云々ではなく、採用の背景にある企業の志や人に対する姿勢をいかに定めていくかが重要になるのです。いわば、個と組織が出会う本質が問われる時代に入るとも考えられるのです。

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前川 孝雄
(株)リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に(株)FeelWorks設立。約400 社で「人が育つ現場」づくりを支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)他多数。前川孝雄の「はたらく論」(ブログ)随時更新中!