会社なんてカッパみたいなもの。「複業」を通じて一人ひとりが幸福になる働き方を目指せばいい。/サイボウズ㈱ 代表取締役社長 青野 慶久氏-後編

コラム&インタビュー

前川孝雄の対談後記:経営者は「100人100通りの働き方」を本気で支援し、社員は「自分で選択し自分で責任をもつ働き方」に本気で挑む。新しい個と組織の関係が垣間見られた。

この対談を通して、青野社長が繰り返し語っていたことは「自分で選択して、自分で責任をもつ」ということだった。これは、FeelWorksが重視している「自律型人材の育成」という考え方と一致する。サイボウズが実践する複業は、この文脈で解釈することによって初めてその意味を理解することができる。

今は副業を解禁する会社が増えてきたとはいえ、多くの会社も個人も、本業以外のお小遣い稼ぎ程度にしか考えていないことが多いはずだ。しかし、サイボウズにおいては、複業をするということは、社員が自分らしく働き、経済的にも精神的にも自立するということ。つまり、自分で選択して自分のキャリアをデザインすることであり、もう一つの職場で新しい発見や経験を重ね、その結果として自分自身が成長することを意味する。それがさらに社員の自立を促すことにもなる。副業がいまひとつうまく機能していない企業は、まずこの根本を見つめ直す必要があると言えそうだ。

人材育成についてもこのように一人ひとりの思いを尊重し、徹底して自立を求めていくと、確かに青野社長の言うとおり、会社というカッパはその役割を大きく変えていくことになるだろう。ただし、サイボウズの改革は、自立意識が強く能力が高い人材が集まったチームだからこそうまくいっているともいえる。そうでない大多数の若者をどう支援していくか。また長年自立と対極の働き方を求められ、会社に滅私奉公しながら働いてきた組織人をどう意識変革していくか。これは社会全体にとっての課題だ。もちろん旧弊の頭でただ考えていても答えは出ないだろう。経営者をはじめ組織を束ねるリーダー自身がまずは一歩を踏み出し、やってみること。成功しようが失敗しようが、その繰り返しでしか、新しいパラダイムに到達することはできないはずだ。

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サイボウズ株式会社
「サイボウズOffice」などのグループウェア製品を手掛けるソフトウェア開発会社。1997年、青野慶久氏らが愛媛県松山市で創業。2000年には東証マザーズに上場し、本社を東京に移転した。青野氏は2005年から代表取締役社長に就任。2006年には東証一部に市場変更。2007年には国内グループウェア市場でトップとなる。働き方の多様化に早くから着手してきたことでも知られ、働く時間と場所を選べる「働き方宣言制度」、最大6年の育児休業、複業の自由化などの斬新な取り組みを実践。2014年「ダイバーシティ経営企業100選」選出、2017年「HRアワード最優秀賞」受賞。Great Place to Work® Institute Japanが実施している「働きがいのある会社ランキング」には6年連続でランクインしている。

構成/伊藤敬太郎