会社なんてカッパみたいなもの。「複業」を通じて一人ひとりが幸福になる働き方を目指せばいい。/サイボウズ㈱ 代表取締役社長 青野 慶久氏-前編

コラム&インタビュー

「100人いれば100通りの働き方がある」を本気で実践

前川:一方で、課題はありますか?たとえば、御社のHPの複業に関するQ&Aに、「土日だけ複業してもいいですか?」という質問があって、完全に自由にしてしまうといろいろ難しい面もあるのかなと感じたのですが。

青野:複業に限らずですが、ルールを設けて一律で○とか×とか決めてしまうのではなくて、ケースバイケースでやっていこうというのが私たちのポリシーなんです。「100人いれば100通りの働き方がある」と考えていますから。ですから、そのような希望があったら、「土日だけというのは一律ダメ」とするのではなくて、「この仕事なら土日だけの複業でも無理しすぎずにできるかもしれない」「この仕事は難しい」というのを現場で話し合って判断しています。

前川:また、普通の会社だと、複業(副業)を解禁するにしても「入社○年目以降に限る」といった条件を付けてしまいがちかと思うんですが、そういったルールもないですね。

青野:当社は新入社員であってもOKです。ただし、その場合は「複業をするのはOKだけれども、サイボウズでの成長は遅れることになるかもしれないよ。そこは認識して、自分で責任をもってね」ということは言います。

前川:自己責任ということですね。

青野:そうですね。もちろんすべては自己責任だと突き放すつもりはないんですが、自分で考えて自分で選ぶということが大切だと思っています。でも、新人でも実際に複業をやっている社員はいますよ。執筆とか、友だちの会社の立ち上げを手伝ったりとか。

前川:へえ、ルール上OKだけど、実際には…という話ではないんですね。そのあたりとも関係してくることかと思うんですが、今、政府の方針転換もあり大手企業も徐々に副業解禁を始めてはいますが、制度はあってもなかなかうまくいっていないことのほうが多いように感じています。そんななか、サイボウズで複業がうまく機能している理由はどこにあるんでしょう?

青野:会社が副業を「本来は好ましくないこと」ととらえていて、「仕方がないから許してやっている」というスタンスだとうまくいかないでしょうね。社員は「好ましくないことをしている」という意識になりますから、副業の内容を隠すようになる。言わば「伏業」です。こうなると、社員は外に出ても何も持ち帰ってくれませんから、その副業には会社にとってのリターンがない。サイボウズではオールOKにする代わりに、オープンにしてくれと言っていますから。その違いが大きいと思います。

前川:普通の会社が副業を好ましくないと考えるのは、やはり本業に対するコミットメントが弱まるという危惧があるようにも思いますが、いかがでしょうか。

青野:むしろ副業を禁止したりするから弱まるんです。「よそで力を使うな。オレのために働け」みたいなことを言われたらやる気なくなりますよ。そこがイケてないなというのが一つ。あとは、そもそも「コミットメントが弱まって何がいけないんだっけ?」と私たちは考えているんです。社員が「10:0」で会社にコミットしてくれなくても、たとえば「6:4」でも、それで本人が心地よく働けているならいいじゃないですか。その分の給料を払えばいいだけですから。

前川:おっしゃるとおりだと思います。ただ、「100人100通り」に対応して給料を決めていくとなると、人事制度の設計や評価が大変ではないですか?

青野:大変です(笑)。でも、言い換えれば、今までの経営者が楽をしすぎていたんですよ。本来一人ひとりの市場価値は違うのに、年齢や社歴で一律に決めるというのがおかしい。ですから、当社では、スキル、実績、時間、いろいろなものを見たうえで、一人ひとりの市場価値を導き出して、「この金額でどうだろう」と提示します。それでOKなら、それがその人の適正価格ということですよね。不満がある場合は交渉してほしいと言っています。