「働きやすさ整備」で離職率4%以下に。でも目指すは「心の余白」づくり。本気でぶつかり合う風土を醸成する社長自らの実践とは/さくらインターネット㈱ 代表取締役社長 田中 邦裕氏-後編

コラム&インタビュー

これからは「コピーできないもの」を育てていかなければならない

前川 従業員の成功ということともつながってくると思いますが、「さぶりこ」のパラレルキャリア、Xターンなどの制度では、「自律」がキーワードになっています。自律した人材をどのように育てるか、それをどのようにチームにしていくかということに関してはどのようにお考えですか?

田中 安心して失敗できる環境を作ることしかないと思うんです。そのためには本音で話し合わないといけないんですよね。

前川 なるほど、そこもさきほどのお話とつながってくるわけですね。そしてそのような風土を作るには、まず経営者自身が実践すると。ただ、仕事柄多くの経営者にお会いしてきましたが、田中社長のように自分自身が柔軟に変化し、迅速に行動できる経営者は決して多くはありません。それは経営者自身が意図的に変化を拒んでいるというのではなく、環境や組織構造的に変化することが難しいという場合も多い。特にドメスティックな伝統的大企業では経営者自身がなかなか変化できない。とはいえ、変化に対応できなければ企業は低迷・衰退していくのですが。。

田中 経営者自身が仕事や人生を楽しむことが大切だと思いますね。楽しみながらいろいろな人と触れ合って経営者自身が変わっていく、それを人事がサポートしていくというかたちになると、組織の意識改革も実現できると思います。

前川 「楽しむ」というのは重要なキーワードですね。さて、ここで未来に向けた話をしたいと思います。個人が自律して自分のキャリアを考え、会社と対等な関係を築く時代になっていくと(私はそうなっていくべきだと考えてもいるのですが)、5年後、10年後、個人の働き方や会社のあり方はどう変わっていくのでしょう?

田中 極論すれば会社はいらなくなるかもしれないですね。とはいえ、個人が自律して働くようになっても、チームでしかできないことってありますし、「安心できる場所」として会社を必要とする人もいるはずです。そこに会社の役割があるといえるでしょう。ただし、「安心できる」とは決して大きな組織というわけではありません。インターネットによって、この20年の間にそれまでの社会が完全に変わってしまいましたから。以前は強固だった大組織との太いつながりが簡単に断ち切られてしまう時代になって、働く個人にとっては、それこそインターネットのようにメッシュ状の細いつながりをいくつももつことが必要になってくると思います。

前川 大企業においても、それぞれの現場でティール組織を創り、チームとして独立して動くかたちが広がりつつありますね。イノベーションを生み出すために、場合によっては会社の壁も越えてしまうこともあります。そうなると、会社にとって大切なものも変わってくることになりますね。

田中 今はビジネスモデルでも設計図でも何でもコピーされてしまいますから、コピーできないものを育てるべきなんです。私は、これからの成功の条件は「熱量」「人とのつながり」そして「運」の3つだと考えているんです。この3つはコピーができませんから。

前川 クローズアップされてくるのはやはり「人」ですね。

田中 そうです。ヒト・モノ・カネの時代は終わりました。今や「人」こそが何より重要な経営リソースなんです。