新入社員のリテンションマネジメントを考える(前編)コミュニケーションギャップとリアリティショックに躓く新入社員

コラム&インタビュー

職場でのコミュニケーションギャップへの悩み

こうした新入社員が会社に就職すると、自分とは全く異なる「バブル」に属する人たち―世代や価値観が大きく異なる人たち―との出会いややり取りに戸惑い、うまくコミュニケーションが取れない傾向があるのです。そして、いろいろな場面で自分が信じている「正義」「正解」が否定され、茫然自失となる例が生じます。

例えば、「上司への報告は早めに正確な文書で」と考えメールで伝えたところ、「大事な報告は直接口頭で」と叱責される例などが典型的です。自分では「よかれ」と信じてやったことが真逆の結果になり、悩んでしまうのです。異世代の価値観やその場のルールなどをそれとなく確認しながら臨機応変に対応できればよいのですが、新入社員ですから、そうした配慮・調整がまだ上手くできないのです。こうした上司・先輩とのコミュニケーションギャップ即ち「職場の人間関係の悩み」の蓄積が、新入社員が職場に定着しにくい大きな要因の1つとなるのです。

リアリティショック―「成長支援」や「顧客満足・社会貢献」への期待と落胆

フィルターバブルの影響として、若手世代には純粋で影響されやすい一面があることに触れました。即ち、一度感銘を受け信じたことに対しては心酔することも起きやすいということ。

就活生向けの会社PRのなかでは、多くの企業が「自社では中長期的な視点で、社員が若いうちから仕事で成長できる支援を行う」ことや、「ワークライフバランスへの取り組み」「女性活躍推進計画の実施」といった社員への配慮を強調します。また、会社の経営理念・ビジョンとしても「顧客満足の重視」や「社会貢献(CSR)への取り組み」などを謳います。もちろん、就活生はこれらを鵜呑みにはせず、ネット検索で実態を探ろうとするものの、二次情報・三次情報の洪水に翻弄され、結局は人事や経営者・先輩社員などからの一次情報のインパクトに影響を受け、会社への期待を膨らませて入社してくる場合が多いのです。

しかし、実際に配属された現場の上司はと言えば、本編冒頭でも見たように、「就社」感覚の価値観で「給料をもらっているのだから、あれこれ言わずに責任持って働け」「会社だから利益追求・営業目標達成を目指すのはあたりまえ」とばかりに指示をしがちです。ハラスメント意識の高まりもあり、平成初期までのように頭ごなしに怒鳴る上司は減ってきていますが、多忙さや緊迫度が高まる状況では、上司も自身の価値観が態度に出てしまうものです。そうなると、上司とのギャップに過敏になっている新入社員は会社説明会で聞いた「お客様のため・社会のためとは違う」と幻滅するのです。

また、業務管理や社員育成面はどうかと言えば、かつてP.ドラッカーが唱えたMBO(目標による管理)の表面部分だけを取り入れた短期的な業績目標管理と人事評価の仕組みがあるだけの現場が散見されます。すると、これにも「一体、社員の中長期的なキャリアや成長支援はどこにあるの?」と不信感を抱き、モヤモヤした気持ちを持つようになります。

こうして新入社員がピュアな気持ちで会社の理念・方針に感化され、心酔して入ってきた度合いが強いほどギャップに対するショックも大きく凹んでしまうのです。これが、いわゆるリアリティショック(理想と現実とのギャップへのショック)です。

コミュニケーションギャップとリアリティショックが早期離職へと繋がる

以上で見てきたように、一方では上司・先輩とのコミュニケーションギャップから「職場の人間関係の悩み」を抱え、さらに職場・仕事への期待外れから来るリアリティショックが重なることで、新入社員はモチベーションを大きく低下させていきます。そして、これが悪化すればメンタル不調に陥り出社困難となり、早期離職に繋がるケースも出てくるのです。

そこで、次回《後編》では、こうした新入社員の傾向と状況を踏まえ、リテンションマネジメントの具体的な手法について考えていきます。

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前川 孝雄
(株)リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に(株)FeelWorks設立。約400 社で「人が育つ現場」づくりを支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)他多数。前川孝雄の「はたらく論」(ブログ)随時更新中!