上意下達のマネジメントを劇的に変えた管理職向け研修とは?/日本郵便㈱-前編

コラム&インタビュー

「マネジメントに正解はない」。それぞれの現場で求められているマネジメントは異なる

「一人ひとりを大切にするマネジメント」。このコンセプトにたどり着いた背景には、吉澤氏の強い危機感があった。

旧郵政省の時代、全社的に「人材訓練」と呼ばれる人材育成の取り組みに力が入れられていた。しかし、2007年の民営化における組織編成や制度変更に伴い、いつの間にか会社全体で人材育成に対する熱量が低下していったという。

同社の管理職は、マネジメントする部下の人数が多い上に、自身もプレイングマネージャーとして、プレイヤー業務に携わることも少なくない。特に金融営業などに従事する担当者には、営業の目標数字がついて回り、マネジメントが後回しになりがちだ。それゆえ、部下に対して必要な指示・命令を下すだけの、上意下達なマネジメントをする管理職も少なくなかった。

「このままでは会社全体がダメになる」。そう考えた吉澤氏は、人材研修育成室長の役職になった2014年から、当時の上司の後押しもあり、組織の要である管理職層に対する意識改革に乗り出すことになる。その肝になったのが研修の内製化だった。

「以前は、管理職研修のほとんどを外注していたんです。でも、現場で日々奮闘する管理職たちに、外部講師の研修を通して『一人ひとりを大切にするマネジメント』の重要性を理解してもらうのは容易ではなかった。現場の実情を深く理解していない講師の言葉は、現実味を感じられず、どうしても綺麗事に聞こえて腹落ちしない。そうなれば、肝心のこのコンセプトの真意や意義も伝わらなくなってしまいます。そこで、研修の内製化に舵を切ったんです」

「一人ひとりを大切にするマネジメント」とは、すなわち上意下達の指示・命令型マネジメントから脱却し、部下の考えや想い、持ち味や強みを尊重し、それを自発的に発揮できるよう導くこと。そのために自らの考えを論理的に順序だてて部下に伝えるロジカルコミュニケーション、会議で部下の意見を引き出し、活発な議論を促すファシリテーション、部下の考えに耳を傾け、質問しながら答えを引き出すコーチングなど、様々なコミュニケーション手法の習得を目指すプログラムを確立。講義やグループ討議の中で、繰り返しその大切さを説き続けた。
※なお、内容の詳細については、同室が出版した著書『30,000人のリーダーが意識改革!「日本郵便」流チーム・マネジメント講座 リーダー必須の知識・ノウハウを完全網羅した6時間プログラム』にまとめられている。

しかし、手塩にかけて作り上げた研修に対し、受講者から「『一人ひとりを大切にするマネジメント』の重要性は理解したけれど、結局現場で何をすれば良いのかわからない。もっと具体的な『正解』が欲しかった」という声が上がってきたのだ。この声を聞き、「管理職としてのマネジメントの形を問い直す現状の研修の方向性に迷いが生じた」と、同じく人材研修育成室長の一木美穂氏は言う。

「でも、研修の回を重ねるごとに、『マネジメントに正解はない』ということに気づいたんです。全国の各郵便局は、地域性もメンバー構成も様々。管理職に求められているマネジメントはそれぞれ異なります。ですので、この研修は、管理職の皆さんがマネジメントに関する一律の『正解』を持ち帰る場ではなく、『自分の局ではどんなマネジメントが求められているのか』を自問自答すると同時に、自身の日頃のマネジメントを振り返る場として活用していただこうと決意を新たにしました」

人材研修育成室のメンバーが暗中模索しながらも、自分たちの人材育成のビジョンや方向性を信じ、本気でメッセージを発信し続けたことで、全国各地で変化の兆しが見え始めている。

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