「自律型人材」を育てるための人事制度・階層別研修とは?/トラスコ中山㈱-前編

コラム&インタビュー

オープンな投票で役員・管理職も降職!透明性の高い人事考課

「例えば、営業のベテランを内勤業務に配置換えしようとすると、『担当が自分でなくなればお客様からクレームが来る』『ずっと営業でやってきたのだからこれからも営業を続けたい』と返ってくるわけです。まさに既得権の発想ですよね。さらに、そのお客様の営業担当として2年目、3年目の女性社員を配置することもありました。当時はお客様も今とは意識が違いますから本当にクレームが来るんです。しかし、未来を担う人材を育てるためにやっていることですから、会社としてそこでブレてはいけない。未来の企業づくり、ヒトづくりのために徹底してやり抜いてきました」

もちろんこのケースで配置換えになったベテランの営業担当者にも、会社は次なる可能性を期待している。新しい職種を経験すれば、ベテランの社員でもさらに視野が広がり、自分でも新たな可能性に気づくことができる。キャリアにかかわらず「やってみなければわからない」ことはいくらでもあり、それだけ成長の余地もあるのだ。

なお、同社はキャリア(海外・国内)、エリア、スペシャリスト、サポート、ロジスの6つの職掌を設けており、社員は自分の希望するコースを選択することができる。このうち人事異動が定期的に行われるのは、キャリア、エリアコースで、エリアコースの場合は転居を伴わない異動がある。ただし、この職掌も固定されたものではなく、数年働いて自分のキャリア観や生活環境に変化があればコース変更が可能となっている。

この人事異動・ジョブローテーションを横軸とすると、縦軸を形成するのはオープンジャッジシステム(OJS)に基づく公平公正な評価制度であり、それに基づく昇格降格制度だ。しかも、その評価軸は業績だけではない。取締役であっても、経営感覚・先見性、リーダーシップ、コミュニケーション能力、公平・公正、独創力、問題解決能力の6評定項目が重視されている。

「当社では、同僚や部下などの投票によるOJSが昇格、降格、昇給などの重要な要素。OJSで定められた得票数以上と80%以上の支持を集めることが昇格の条件になっています。ここでも聖域は設けておらず、役員もOJSも対象ですし、社長に関しては、株主総会で株主に投票してもらいます。また、ボス(課長、支店長など管理職)もボス候補者もOJSの評価によって順位付けがされます。ボスの下位5名は、年に一度自動的に降職となるシステムです」

キャリアに応じたスキルアップの努力を続けていなければ、また、それを周囲に認められなければ、一度得たポジションも既得権とはならない。自覚と緊張感を持って成長し続けることがあらゆる階層の社員に必要とされる制度だ。しかし、透明性と公平公正を徹底しているからこそ、全員がこのシステムに納得し、安心して、やりがいを持って働くことができる風土が生まれる。

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